昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十七)の三

2013-03-26 20:20:02 | 小説

(三)

富男と呼ばれた若い男が、大きく何度も頷いた。

「間違いないです、小夜子さまでした。
見間違うことなんて、ありませんて。
あれは間違いなく小夜子さまです。」

「この富男の奴、小夜子にベタ惚れで。
小夜子の頼み、いやあれは命令に近かったですの。
わしに何度叱られても、小夜子の頼まれ事をやっておったから。」

頭をこずかれながらも、にやけた表情がまるで消えない。

小夜子を見ることができたということだけで、
一年分の喜びを得られたような気がしている富男だった。

「こりゃ、いよいよですかの。
そうなりゃ、村としても知らん振りはできませんな。
わしは勿論のこと、村長も出席せにゃならんでしょうな。」

「いやいや、そこまでは。
佐伯のご本家さんならいざ知らず。」

「なにを言いなさる。
あの寄付金がありますぞ。
村始まって以来のことですからの。

どうです? ここだけの話ですが、村長に名乗りを上げられたら。
今の村長も長いですから、そろそろ。」


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