(三)
富男と呼ばれた若い男が、大きく何度も頷いた。
「間違いないです、小夜子さまでした。
見間違うことなんて、ありませんて。
あれは間違いなく小夜子さまです。」
「この富男の奴、小夜子にベタ惚れで。
小夜子の頼み、いやあれは命令に近かったですの。
わしに何度叱られても、小夜子の頼まれ事をやっておったから。」
頭をこずかれながらも、にやけた表情がまるで消えない。
小夜子を見ることができたということだけで、
一年分の喜びを得られたような気がしている富男だった。
「こりゃ、いよいよですかの。
そうなりゃ、村としても知らん振りはできませんな。
わしは勿論のこと、村長も出席せにゃならんでしょうな。」
「いやいや、そこまでは。
佐伯のご本家さんならいざ知らず。」
「なにを言いなさる。
あの寄付金がありますぞ。
村始まって以来のことですからの。
どうです? ここだけの話ですが、村長に名乗りを上げられたら。
今の村長も長いですから、そろそろ。」
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