昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~警察署の一室においてのことだ~(五)

2016-01-08 09:00:17 | 小説
 なおも問い質そうとする孝男に
「ボケ老人の、ちょっとしたイタズラですって。度が過ぎただけのことなんですよ」
 と、大したことはないと強調する道子だが、次男が激しく噛み付いた。

「じょうだんじゃねえ! あいつは、ほのかを泣かせたんだ。
許せねえ。今度やったら、殺してやる。ぜってえ殺してやる」
 次男の据わった目は、激しい殺意にも似た色を秘めている。

「ちょっと待ちなさい。イタズラとは、どういうことだ。
ほのかはどうしているんだ。警察に居ると聞いて飛んできたんだぞ」
「まあまあ、それはとんだ誤解でしたわね」

 素知らぬ顔で、道子は受け流す。
次男が警察にといっても、孝男が来ることはない。
しかしほのかが居るとなれば、何を置いても駆けつける孝男だと知る道子だ。
ひと言「ほのかが泣いています」と漏らした言葉で、孝男は飛んできた。

 人通りの多い往来では大きい声を出すことも出来ず、また道子を叱責することもできない。
イラつく孝男は、唇を真一文字に結んでタクシーに乗り込んだ。

 分かってはいることだったが裏切られたという思いがわき上がった次男は、踵(きびす)を返して脱兎の如くに走り去った。
慌てて引き止めようとする道子に
「ほっておけ、あんな奴のことは。それより、ほのかだ」
と、車内に引き込んだ。


*明日から一泊二日で、美術館巡りをしてきます。
 箱根の「彫刻の森美術館」と、伊東市にある「池田20世紀美術館」で、美術品を堪能してきます。
  1月9日~11日の三日間のブログはお休みします。


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