昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~警察署の一室においてのことだ~ (四)

2016-01-07 09:25:30 | 小説
「お父さん、よろしいですかな」

 年配の刑事が声をかけてきた。
相手側が被害届を出さないことになり、事件化は見送られたと告げられた。

「相手には公にしたくない事情があるのかもしれませんな、想像は付きますがね。
それにしても息子さん、妹思いじゃないですか。
ま、ちょっと度が過ぎはしましたがな」

「お前はだめな奴だ」が口癖の父親が、仕事一筋だと思っていた父親が、警察署に飛んできた。
信じられぬ思いの次男だった。
今さら父親面されてもな、と腹立たしさを感じつつも、嬉しさもまた感じた。

「母さん。ほのかはどうしてる。まだあそこなの? あいつ頑固だから、まだ頑張るつもりかな」

 明るく話す次男に、孝男の怒りが爆発した。

「いい加減にしろ! お前はどれだけ迷惑をかければ気が済むんだ。
こんなことが、警察沙汰になったことが銀行にでも知れてみろ、たちまちお父さんは閑職に追いやられてしまう。
いや、解雇だってありうるんだ」

 青筋を立てて怒る孝男だった。
しかし声を押し殺して周囲に聞かれぬようにする様を、次男は楽しむかのように嘲笑している。

「で、道子。ほのかはどうなんだ」
「どうということはありませんよ。ちょっとした誤解が元のことですから」


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