昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十五) 六

2013-09-12 18:59:03 | 小説

(六)

その夜、武蔵の自宅で酒盛りをする二人。

「二人目をな、産めなくなったらしい。
そのお陰で命拾いよ。

しかし乳が出ないってのは、赤子してみりゃ死活問題だ。
おまんまなんだから、赤子の唯一の。

で仕方なく、貰い乳をと。
ところが間が悪く、ご近所に誰も居ないときてる。

で止む無く、米のとぎ汁ということだ。
とぎ汁が乳代わりだったんだぜ」

「それは難儀なことだ。
おふくろさん、さぞ辛かったでしょう」

「だろうな。
鳥越八幡宮って知ってるか? 

山形の新庄市なんだが。
武運長久のご利益があるらしい。

お袋がな、お百度参りしたらしい。
兵隊になるんじゃないぞ、何とか育ちますようにってだ」

「しかし今じゃ、この頑丈さだ」
「どういうことで?」

「盗みに走っちまったよ。
とに角腹ぺこだ、手当たり次第だったよ。

近所じゃ顔を知られててまずいってんで、隣町に遠征さ。
んでもって、走った。

店先から盗んでは、一目散に走った。
とっ捕まったら、こっぴどく叩かれるからな。

足の遅い奴はいっつもだ、顔が腫れてたよ。
あんまり可哀相なんで、そいつに少し分けてやったよ」


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