(六)
その夜、武蔵の自宅で酒盛りをする二人。
「二人目をな、産めなくなったらしい。
そのお陰で命拾いよ。
しかし乳が出ないってのは、赤子してみりゃ死活問題だ。
おまんまなんだから、赤子の唯一の。
で仕方なく、貰い乳をと。
ところが間が悪く、ご近所に誰も居ないときてる。
で止む無く、米のとぎ汁ということだ。
とぎ汁が乳代わりだったんだぜ」
「それは難儀なことだ。
おふくろさん、さぞ辛かったでしょう」
「だろうな。
鳥越八幡宮って知ってるか?
山形の新庄市なんだが。
武運長久のご利益があるらしい。
お袋がな、お百度参りしたらしい。
兵隊になるんじゃないぞ、何とか育ちますようにってだ」
「しかし今じゃ、この頑丈さだ」
「どういうことで?」
「盗みに走っちまったよ。
とに角腹ぺこだ、手当たり次第だったよ。
近所じゃ顔を知られててまずいってんで、隣町に遠征さ。
んでもって、走った。
店先から盗んでは、一目散に走った。
とっ捕まったら、こっぴどく叩かれるからな。
足の遅い奴はいっつもだ、顔が腫れてたよ。
あんまり可哀相なんで、そいつに少し分けてやったよ」
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