昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十六)の二

2013-03-14 20:41:11 | 小説

(二)

「小夜子、小夜子ちゃーん。
どうしたのかな、疲れたのかなぁ?」

月明かりを頼りに、薄暗い部屋を見る。

“隣の部屋か? 気分屋の小夜子のことだ、今夜は変えたか。”

寝室を変えたことなど一度とてない。
まして、物置同然にしている部屋だ。

小夜子の買い求めたものが、所狭しと並べられている。
衣装箪笥に長持ち、そして衣桁と。

「かーくれんぼ、かくれんぼ。そら、見つけたぞ。」
勢い良く襖を開けてみるが、かび臭い空気が流れ出てくるだけだ。

「風を通していないのか。」
と、武蔵の声だけが聞こえる。

“正三がなんだ、官吏さまだと? 
そんなもん、そんなもん……”

吐き出してしまえばいいものを、どうしても声にすることができない。

小夜子を大切にしてきたと、自負はある。

しかしそれを小夜子がどう受け止めているのか、感謝の気持ちは多少はあるだろう。

けれどもその思いを受け止めることのない小夜子だと、知る武蔵だ。


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