(二)
「小夜子、小夜子ちゃーん。
どうしたのかな、疲れたのかなぁ?」
月明かりを頼りに、薄暗い部屋を見る。
“隣の部屋か? 気分屋の小夜子のことだ、今夜は変えたか。”
寝室を変えたことなど一度とてない。
まして、物置同然にしている部屋だ。
小夜子の買い求めたものが、所狭しと並べられている。
衣装箪笥に長持ち、そして衣桁と。
「かーくれんぼ、かくれんぼ。そら、見つけたぞ。」
勢い良く襖を開けてみるが、かび臭い空気が流れ出てくるだけだ。
「風を通していないのか。」
と、武蔵の声だけが聞こえる。
“正三がなんだ、官吏さまだと?
そんなもん、そんなもん……”
吐き出してしまえばいいものを、どうしても声にすることができない。
小夜子を大切にしてきたと、自負はある。
しかしそれを小夜子がどう受け止めているのか、感謝の気持ちは多少はあるだろう。
けれどもその思いを受け止めることのない小夜子だと、知る武蔵だ。
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