(三)
“小夜子は、俺が女にしたんだ。
どうだ、そんな女をお前は、お前は受け入れられるのか。
どうだ、正三!
小夜子、お前は見限っていなかったのか?
小夜子、小夜子、小夜子ぉぉ。”
がっくりと肩を落として居間に入り、崩れるようにソファに体を投げ出した。
本皮シートのイタリア製のソファ。
会社用にと購入したのだが、その座り心地の良さに惚れこんで追加したものだ。
「痛いっ!」
突然の嬌声、驚いたのは武蔵だ。
誰も居ないと思い込んでいたこの家に、薄ぼんやりとしたこの部屋に、小夜子が居た。
「どうしたんだ、灯りも点けずに。
寝ていたのか、このソファは良いだろう?
このひじ掛けを枕にして眠ると、良く眠れるんだ。
俺も良く眠るぞ。
そうだろ? 小夜子にいつも起こされているよな。」
饒舌な武蔵に対し、唇を真一文字に結んだままの小夜子。
一点を凝視して、身動き一つしない。
灯りを点けると、出かけたままの洋装姿だ。
帰宅時には着替えるのが常の、小夜子なのに。
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