昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十六)の三

2013-03-15 22:02:16 | 小説

(三)

“小夜子は、俺が女にしたんだ。

どうだ、そんな女をお前は、お前は受け入れられるのか。
どうだ、正三! 

小夜子、お前は見限っていなかったのか? 
小夜子、小夜子、小夜子ぉぉ。”

がっくりと肩を落として居間に入り、崩れるようにソファに体を投げ出した。

本皮シートのイタリア製のソファ。

会社用にと購入したのだが、その座り心地の良さに惚れこんで追加したものだ。

「痛いっ!」

突然の嬌声、驚いたのは武蔵だ。
誰も居ないと思い込んでいたこの家に、薄ぼんやりとしたこの部屋に、小夜子が居た。

「どうしたんだ、灯りも点けずに。
寝ていたのか、このソファは良いだろう? 

このひじ掛けを枕にして眠ると、良く眠れるんだ。
俺も良く眠るぞ。

そうだろ? 小夜子にいつも起こされているよな。」

饒舌な武蔵に対し、唇を真一文字に結んだままの小夜子。
一点を凝視して、身動き一つしない。

灯りを点けると、出かけたままの洋装姿だ。
帰宅時には着替えるのが常の、小夜子なのに。


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