(七)
他人に頭を下げることなど、まず有りえない佐伯本家の当主が謝った。
村一番の実力者が、小娘である小夜子に土下座をしたのだ。
ざわついていた座が、一瞬の内に静まり返った。
「ご、ご当主さん。おやめください。
小夜子は、なんとも思っていませんから。
そうじゃろう、小夜子。
いけませんて、それは。
どうぞ、頭を上げてください。」
慌てて繁蔵が起こしにかかる。
「ご立派! さすがに、村一番の実力者だ。
御手洗武蔵、こんな立派な土下座は見たことがない。
感服しました、実にすばらしい。
ご当主さまのためにも、村に尽くさせていただきます。」
当主の手を取って大仰にふりながら、武蔵が声を張り上げた。
そこでまた、村人の拍手が大きく鳴り響いた。
小夜子に対する土下座ではないことは、すぐに武蔵には分かった。
正三の次官への道を妨害しないでくれ、と武蔵には聞こえた。
“分かったよ、邪魔しないよ。
俺だって、そんなことに構ってられるほど暇じゃないんだ。
いいかい、その代わりに茂作爺さんを頼むぜ。
決して粗末に扱うなよ。
今日あんたがした土下座の意味を、決して忘れるなよ。
俺も、あんたが見せた誠意をしっかりと覚えておくから。”
“そうね、そうよね。
本家が邪魔をしてたのね。
だからなのね。
だけど、情けない男。
女のために命をかける位の気概はないの?
見なさいな、タケゾーを。
わたしの為なら、どんなことも……”
小夜子が見せた恍惚の表情、誰に気付かれることもなかった。
他人に頭を下げることなど、まず有りえない佐伯本家の当主が謝った。
村一番の実力者が、小娘である小夜子に土下座をしたのだ。
ざわついていた座が、一瞬の内に静まり返った。
「ご、ご当主さん。おやめください。
小夜子は、なんとも思っていませんから。
そうじゃろう、小夜子。
いけませんて、それは。
どうぞ、頭を上げてください。」
慌てて繁蔵が起こしにかかる。
「ご立派! さすがに、村一番の実力者だ。
御手洗武蔵、こんな立派な土下座は見たことがない。
感服しました、実にすばらしい。
ご当主さまのためにも、村に尽くさせていただきます。」
当主の手を取って大仰にふりながら、武蔵が声を張り上げた。
そこでまた、村人の拍手が大きく鳴り響いた。
小夜子に対する土下座ではないことは、すぐに武蔵には分かった。
正三の次官への道を妨害しないでくれ、と武蔵には聞こえた。
“分かったよ、邪魔しないよ。
俺だって、そんなことに構ってられるほど暇じゃないんだ。
いいかい、その代わりに茂作爺さんを頼むぜ。
決して粗末に扱うなよ。
今日あんたがした土下座の意味を、決して忘れるなよ。
俺も、あんたが見せた誠意をしっかりと覚えておくから。”
“そうね、そうよね。
本家が邪魔をしてたのね。
だからなのね。
だけど、情けない男。
女のために命をかける位の気概はないの?
見なさいな、タケゾーを。
わたしの為なら、どんなことも……”
小夜子が見せた恍惚の表情、誰に気付かれることもなかった。
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