(十)It's me!
○刑囚はゆっくりと大きく吐き出し、煙の行方を目で追った。
そして○刑囚の目に映ったものは。
社会機構のなかで身うごきできない世界が、あたかも煙を吐きだすように○刑囚の人生を変えてしまった。
毒々しいけむりに焚きつけられて、いつのまにか時間の暴力にのみこまれていた。
そののみこまれた世界は、だれもいない浜辺だった。
うす気味わるい灰黒色の雲におおわれた浜辺で、ネイビーブルーの海をたったひとりで泳いでいる○刑囚を、だれかがうつろな目で見ている。
「だれだ、おまえは!」
視線に気づいた○刑囚が問いかける。
「It's me!」
声がかえってきた。
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