昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十四) 一と二

2012-08-25 21:15:19 | 小説
(一)


「実はな、小夜子。
そのアナシ、、えぇい、アーシアって呼ばせてくれ。

アーシアはな、睡眠薬の飲みすぎだったんだ。
聞いたか? アーシアから。」


小夜子の反応をうかがいながら、武蔵はゆっくりと話を続けた。
「ううーん、何にも。

そう、睡眠薬を飲んでたの? 
やっぱり、早く小夜子が行ってあげれば良かったのね。」

「そうだな、ほんとにそうだな。
けど、俺が寂しくなるがな。

小夜子、落ち着いて聞いてくれよ。
五平の調べによるとだ、」

突然小夜子の指が、武蔵の声を遮った。
武蔵の唇に手を当て、小夜子が口を開いた。

「ちょっと待って。
アイス、溶けてない? 

タケゾーにも上げようと思ってね、アーシアには一つしか上げなかったのよ。
偉いでしょ、小夜子。

タケゾーのことも、キチンと考えてるんだから。」

テーブルのアイスに手を伸ばして、
「おかしいわ、おかしいわよ。
こんなの、絶対おかしい!」
と、金切り声をあげた。

「どうした? 
大丈夫だぞ、俺に話してみろ。」

「アーシアに一つ上げたのよ。
なのに、三つ入ってる。

開けたとき、三つだったのよ。
なのに、なのに、どうしてなの!」

「小夜子、それは違うぞ。
五つ、入ってた筈だ。

五平に、五つ買ってこいと言ったんだ。
三つはな、身を切ると言って縁起が悪いだろう? 

四つは死だしな。だから五つにしろ、ってな。」

五平の購入数など知る由もない武蔵だが、何とかなだめようとする武蔵だ。

「そっか、そうだよね。
小夜子の勘違いだね。
ね、食べよう。」
と、武蔵に差し出す小夜子。

「どうせなら、小夜子に食べさせて欲しいがな。」




(二)

「もう、甘えん坊ね。
いいわ、じゃ、アーンして。」

「うん、うまいぞ。
こんなにうまいアイスは、初めてたぞ。」

相好を崩して、小夜子が運ぶアイスをほおばる。

「でしょ、でしょ。
アーシアも、美味しいって言ってた。」

「大っきな目をね、まん丸にしてね、
“フクースナ!”って言ってくれたよ。」

「なんだ?」

「ハハハ、フ、クー、ス、ナ、だよ。
タケゾー、分からないんだ? ロシア語は。」

武蔵の口の中で、スプーンが踊る。
カチカチと、歯に当たり音を立てる。

「ロシア語でね、おいしいよって言う意味なの。」

得意げに小鼻を膨らませる、小夜子。
思わず抱きしめたくなるような、小夜子だ。

「小夜子はロシア語が分かるのか? 
そいつは凄いぞ! 
ソビエトと貿易を始めたら、小夜子が通訳してくれ。」

「うふふ……いいよ。
通訳してあげる。
アーシアにいっぱい教えてもらうから。」

どうしてもアナスターシアから離れない小夜子だ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿