(三)
“小夜子はどこまで知ってるんだ?
美容室で聞かされた筈なんだが。
それとも、受け入れることができないのか?
としたら、事の顛末を話していいものかどうか……”
逡巡してしまう武蔵。
いずれは話さねばならぬとしても、そのいずれをいつにするか。
悩む武蔵だ。
即断即決が心情の武蔵だが、こればかりはそうもいかない。
“医者に相談してみるか、素人考えは生兵法だ。”
「タケゾー……」
「なんだ、どうした?」
心なしか、小夜子の肩が小刻みに震えている。
小夜子の膝に、ぽたりぽたりと滴がしたたり落ちる。
「アーシアね、アーシアね。
死んじゃったの、小夜子を残して死んじゃったの。」
武蔵の膝に顔をうずめて、激しく泣きじゃくった。
「そっか、そっか、死んじゃったのか。
アーシアが死んじゃったか。
それで小夜子にお別れを言いに来てくれたのか。
そっか、そっか。
可哀相にな、可哀相にな。
けどな、なんの心配もいらんぞ。
小夜子は、この俺の宝だ。
武蔵の宝物だから。」
(四)
「タケゾー! ほんとね、ほんとね。
小夜子を守ってくれるよね。
ほんとはね、アーシアがね、呼びに来たの。
一緒にこちらで暮らそうって。
でもね、小夜子、まだ死にたくないの。」
「大丈夫、大丈夫。
俺が付いてる、武蔵が守ってやる。
アーシアには、俺から話しておくから。
安心してください、ってな。」
小夜子の体を抱き起こすと、涙でくしゃくしゃになった頬に、軽く口を押し付けた。
流れ落ちる涙を
「しょっぱい、しょっぱいけど、美味しいぞ。」
と、吸い続ける。
「バカ…そんなこと……」
小夜子の目が閉じられた。
“待て待て、急いては事を仕損じるぞ。
それとも、据え膳喰わぬは男の恥か?
いやいや、小夜子は俺の伴侶になる女だ。
そこらの女どもと一緒にしちゃいかん。”
「チュッ!」
小夜子のおでこに軽く触れて
「もう休め。
明日、ビフテキでも食べよう。
小夜子、好きだもんな。
牛一頭分、平らげさせてやるぞ。」
と、体を横たえさせた。
「タケゾーも、眠ろうよ。
小夜子と一緒に寝ようよ。」
武蔵の手を握り、小夜子の隣へと誘った。
「そうだな、寝ような。
一緒に寝ような。
これからずっと一緒に寝ような。」
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