(九)
「武士? 良い名前ね。どう? あなたみたいな美男子で生まれてくるかしら?」
「あぁ、大丈夫だ。小夜子と俺の子だ。美男子に決まってるさ」
武蔵の手を握り締めながら、時折襲い来る陣痛をこらえた。
産婆の呪文が途絶えたいうのに、その痛みに耐えられる小夜子だった。
「どうだ? 俺の念も、捨てたものじゃないだろうが」
小夜子が苦痛に歪む表情を見せると、すぐさま
「よし、吸い取ってやるぞ。小夜子の痛みを、俺が全部吸い取ってやる」
と、小夜子の口を吸った。
「はいはい、ごちそうさま。タクシーが来ましたよ。
それじゃ、病院に行きましょうかね。先生もこれから向かうって話しだし。
妊婦が居なけりゃ、話にならないわ」
病院に到着すると、玄関先に四五人の人影があった。
その中には、帰宅した産科の婦長までもが駆りだされていた。
「大丈夫ですよ、御手洗さん。あとはあたくし達にお任せください」
柔和な表情の中にも、“一介の民間人如きに、何で私までが”と苦りきった表情をチラリと垣間見せた。
「お願いしますよ、婦長。とりあえず、これを。
看護婦さんは、何人ほどお見えですか? 十人、二十人ですか?
婦長には、改めてお礼をさせて頂きますよ」と、封筒を手渡した。
「あら、そんなこと。ここは大学病院です、受け取るわけには」
「いや、そうおっしゃらずに。お産は、長時間にわたるとか。
夜食代の一部にでもして頂ければ、ということですので」
「武士? 良い名前ね。どう? あなたみたいな美男子で生まれてくるかしら?」
「あぁ、大丈夫だ。小夜子と俺の子だ。美男子に決まってるさ」
武蔵の手を握り締めながら、時折襲い来る陣痛をこらえた。
産婆の呪文が途絶えたいうのに、その痛みに耐えられる小夜子だった。
「どうだ? 俺の念も、捨てたものじゃないだろうが」
小夜子が苦痛に歪む表情を見せると、すぐさま
「よし、吸い取ってやるぞ。小夜子の痛みを、俺が全部吸い取ってやる」
と、小夜子の口を吸った。
「はいはい、ごちそうさま。タクシーが来ましたよ。
それじゃ、病院に行きましょうかね。先生もこれから向かうって話しだし。
妊婦が居なけりゃ、話にならないわ」
病院に到着すると、玄関先に四五人の人影があった。
その中には、帰宅した産科の婦長までもが駆りだされていた。
「大丈夫ですよ、御手洗さん。あとはあたくし達にお任せください」
柔和な表情の中にも、“一介の民間人如きに、何で私までが”と苦りきった表情をチラリと垣間見せた。
「お願いしますよ、婦長。とりあえず、これを。
看護婦さんは、何人ほどお見えですか? 十人、二十人ですか?
婦長には、改めてお礼をさせて頂きますよ」と、封筒を手渡した。
「あら、そんなこと。ここは大学病院です、受け取るわけには」
「いや、そうおっしゃらずに。お産は、長時間にわたるとか。
夜食代の一部にでもして頂ければ、ということですので」
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