昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十三) 経験でございますよ

2013-12-04 21:00:13 | 小説
(四)

「小夜子奥さま、お湯加減はいかがですか?」
笑いをかみ殺している小夜子に、外から千勢が声を掛ける。

「ありがとう、ちょうどいい具合よ。千勢は、お風呂焚きも上手ね。
あたしなんか、熱すぎたり温かったりの失敗ばかりよ。

いつだったか、水風呂に武蔵を入れちゃった。
沸かし終えたって、勘違いしちゃってさ」

「経験でございますよ、何ごとも。
あたしにしても、初めの内は失敗ばかりでしたから」

「そうなの? 千勢の失敗談、聞きたいわ。
おうどん、用意できてるかしら。少しお腹が減ってきたわ。
上がるから、準備して頂戴」

「ねえ。千勢は、長いのよね。武蔵の世話を始めてから、どの位になるの? 
うん、美味しい! かつおのお出汁がちょうどいいみたい。

削りたてのかつお節ね? でも、どうやるの? 
あたしもやってみたけど、加減が難しいのよね」

「小夜子さまは、ほんとに美味しそうに食べていただけます。
作り甲斐が、ほんとにあります」

「あたしね、お上品に食べることができないのよ。
どうしても吸い込むのよね、ズ、ズーって。

武蔵は、麺はそれでいいって言ってくれるけど。
汁物は立てちゃだめだぞって、言われたけど」


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