栄子の駆け引きかとも思う松下だが、ここは慎重にと「ママのおっぱいが恋しい年頃だろうに」と、正男に探りを入れた。
顔を赤くして反論しようとする正男を制して
「松下さん。今夜は紳士的に行きましょうよ」と、栄子が牽制した。
「あなたのステイタスには相応ふさわしくないと思えたものでね。
彼には、沙織とか言う女性がお似合いだ思うんですがね。
たしかにご両親は立派だ。父上が経産省の官僚、母上は華道の先生ときている。
ところがどうしたことか、彼は…」
「ど、どうして、ぼくのことを」
青ざめた顔色で正男が口をはさんだ。
しかし松下は毅然として
「別に君がどうこうと調べたわけじゃない。付録だよ、付録。
栄子さんには失礼だが、調べさせてもらいました。
パートナーになってもらう女性だ。分かって貰える思いますが」と告げた。
「そうですか。で、合格しましたの?」
栄子が平然とたずねる。誤解です、そんなつもりでは…と、松下が頭を下げた。
トラブルを抱えていないか、おありならば解決のお手伝いをしようと考えたと言う松下に
「別にさぐられて困るようなことは、なにもありませんわ」と答えた。
「じつは一つ気になることがあります。
足首のことですが、ぼくの知る整体師に診せませんか。名医と評判なのですが」
二人の会話に入れない正男が、
「栄子さん、ぼくと結婚して下さい。いま、クラウドファンディングで資金集めをしていますが、もう少しで目標の百万に達しそうなんです。
百万本の薔薇ならぬ百万円分の薔薇を、ステージに敷き詰めますから。
その上で改めてプロポーズさせてください」と、どうだい! と言わんばかりに鼻を膨らませた。
「こりゃ驚いた。案外にアイデアマンじゃないか。
でも、ママに相談しなくて良いのかい」と、松下が茶化した。
「ママのことは言うな! 栄子さんのお陰で、ぼくは一人前の男になれたんだ。
もうマザコンなんて言わせないんだから」と、始めて正男がかみ付いた。
呆気にとられた栄子は、松下と顔を見合わせて笑い転げた。
正男が真剣な眼差しで
「栄子さん。ぼくは本気です。だからこそあなたに頼まれた金も用意したんだ。
ぼくはいまはまだバイトの身ですが、恥も外聞もすてて父に就職の世話をしてもらいます。
そしてしっかりと働いてあなたを愛し続けます。
一生をかけてあたなに尽くします。ですから、ぼくと結婚して下さい」と、詰め寄った。
そして松下に対して言い放った。
「あんたは、上がりなんだ。でもぼくは、これから成長するんだ」
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