昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ツバメの旅 どうわ集 第三章 華やかな出発、惨めな終局

2020-04-18 08:00:01 | 童話(どうわ)
 それは、あるはれたひるさがりのことでした。
 そとには、サンサンとおひさまのひかりがさしているというのに、このそうこのなかにはひかりがさしてきません。
くらくてなにもみえません。

 なにやら大きなものがたくさんおいてあるようですが、はっきりとはわかりません。
でも、、、やねのすきまから、たったひとすじ、ひかりがさしこんでいました。
そうこのすみっこにころがっている、ホコリをかぶったトンガリぼうしをてらしています。

 どうやらそのぼうしは、ないているようです。シクシクとないています。
そのせいでしょうか、そのすみっこはジメジメしています。
オヤッ? と、よくちゅういしてみつめると、…… おやおやそのぼうしさんにはどこかでお目にかかりました。
 みおぼえのあるぼうしさんです。

 それは、きょねんのはるでした。
パリにある、大きな大きなおやしきでファッションショーがひらかれたときです。
このぼうしさんは、いちだんたかいだいのうえにかざられていました。
みんなにうらやまましがられていました。

[かんぺきなび]というタイトルのついたぼうしで、ゆうめいなデザイナー=カロダンというひとのさくひんでした。
あつまったすべてのひとたちがためいきをもらし、みあげています。
そして、くちぐちにほめたたえていました。
ぼうしさんもとくいがおでした。

 わたしはこのぼうしさんにはなしかけたのですが、へんじをしてくれません。
ツン! としています。
ぼうしさんは、シャンパンとかいうおさけをあけては大さわぎをしているひとたちをみおろしていました。

「ぼうしさん! みんなはきみをほめたたえているのではないよ。
あのデザイナーでもない、いちりゅうというかたがきにだよ、めいせいにだよ」
「シャンパンをのむために、あつまっているんだよ、ごちそうをたべるためだよ」と、こえのかぎりにおしえてあげたのですが、しらんふりでした。

 じつはきいてしまったのです、このおやしきにあつまるみちすがらにはなしているのを。
「カロダンは、そんなにすごいデザイナーなのかい?」
「そうでしょうよ、みなさんがそういわれてますわよ。しんぶんにものっていますもの」

 わたしは、ぼうしさんのことをあんじながらも、なかまといっしょにとびたちました。
だって、そんなきょえいのかたまりのばしょでは、はねがおもくなってじゆうにとびまわれなくなってしまいます。

 そして、いまです。 
 あのおやしきにたちよりましたが、あのぼうしさんはいませんでした。きえていました。
ちがうぼうしさんがいたのです。
[うちゅうのはてのび]と、タイトルがありました。

 わたしはそのぼうしさんにはこえをかけることをしませんでした。
そして、あのぼうしさんはこのくらいそうこのかたすみにすてられていたのです。

 ぼうしさんがわたしにきがつきました。
あわててなみだをふくと、いぜんのぼうしさんにもどりました。
ツンとしたあのぼうしさんに。

「あら、あのときのツバメさん。ごきげんよう!」
「こんにちわ、ぼうしさん。こんなくらいそうこのなかではさびしいでしょう?」
「とんでもない。わたくしくらいばしょじゃなきゃ、おやすみできませんの。
つかれたので、おねがいしましたのよ」

 もう、なにをいってもだめでした。
すてられたとは、けっしていいません。
プライドがゆるさないのでしょうか。
どろんこのネズミさんがこえをかけても、しらんふりです。

 でも、わたしは、ぼうしさんのほんとうのきもちをしっています。
だれもいなくなったときに、ぼうしさんがつぶやいたことばをきいていたのです。

「わたしは、ネズミになりたい……」                



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