(五)
「イヤ、あそこはイヤ!
一人で帰るから。
ハイヤーを呼んで。
一人で帰れるから。
早く呼んで!」
ぐったりと力なく座り込んでいた小夜子が、死人のように蒼白い小夜子が、必死の形相で叫んだ。
五平が来るのだが、加藤という名が耳に入った途端に忌まわしい加藤家が浮かんだ。
やっと抜け出られた加藤家に戻るなど、到底考えられない。
「こんなに嫌がるんだから、ハイヤをー呼んだ方がいいわよ。」
「そうね、分かったわ。すぐ呼びますからね、すぐに。」
ハイヤーが着くまでの間、
「アーシアが淋しがってる、アーシアが呼んでる。
行かなきゃ、行かなきゃ……」
呪文の如くに唸り続ける小夜子だった。
「会社の車はやめてくださいませんか。
えらく興奮していらっしゃるんです。
強いご要望で、ハイヤーを呼びましたので。」
「お電話には出られませんでしょうか?
状況をつかめと、指示されたのですけど。」
(六)
押し問答を続ける内に、ハイヤーが到着した。
「さよこさん。来ましたよ、ハイヤーが。
分かりますか? 来たんですよ、ハイヤーが。」
ハイーヤの到着で、小夜子の表情が穏和になった。
武蔵の元に戻れるという安心感が、小夜子を落ち着かせた。
覚束なくはあるが、何とか自力で立ち上がる小夜子だ。
「ご迷惑をおかけしました。これ、お代金です。 」
「いえいえ、まだ途中ですから。」
「落ち着いたら、改めてお願いしに参ります。」
「それじゃその折りに頂きます。」
二人の手の間を、和紙の袋がが行き来する。
「貰っときなさい、二度と来やしないわよ。」
痺れを切らせて、松子が千夜子に囁く。しかしそれでは困るのだ。
千夜子は、何としてもシャンプーを手に入れねばならないのだ。
「お気を付けて。」
深々とお辞儀で送り出しながら、
“お願いだから、また来てくださいよ。”と、念じた。
「イヤ、あそこはイヤ!
一人で帰るから。
ハイヤーを呼んで。
一人で帰れるから。
早く呼んで!」
ぐったりと力なく座り込んでいた小夜子が、死人のように蒼白い小夜子が、必死の形相で叫んだ。
五平が来るのだが、加藤という名が耳に入った途端に忌まわしい加藤家が浮かんだ。
やっと抜け出られた加藤家に戻るなど、到底考えられない。
「こんなに嫌がるんだから、ハイヤをー呼んだ方がいいわよ。」
「そうね、分かったわ。すぐ呼びますからね、すぐに。」
ハイヤーが着くまでの間、
「アーシアが淋しがってる、アーシアが呼んでる。
行かなきゃ、行かなきゃ……」
呪文の如くに唸り続ける小夜子だった。
「会社の車はやめてくださいませんか。
えらく興奮していらっしゃるんです。
強いご要望で、ハイヤーを呼びましたので。」
「お電話には出られませんでしょうか?
状況をつかめと、指示されたのですけど。」
(六)
押し問答を続ける内に、ハイヤーが到着した。
「さよこさん。来ましたよ、ハイヤーが。
分かりますか? 来たんですよ、ハイヤーが。」
ハイーヤの到着で、小夜子の表情が穏和になった。
武蔵の元に戻れるという安心感が、小夜子を落ち着かせた。
覚束なくはあるが、何とか自力で立ち上がる小夜子だ。
「ご迷惑をおかけしました。これ、お代金です。 」
「いえいえ、まだ途中ですから。」
「落ち着いたら、改めてお願いしに参ります。」
「それじゃその折りに頂きます。」
二人の手の間を、和紙の袋がが行き来する。
「貰っときなさい、二度と来やしないわよ。」
痺れを切らせて、松子が千夜子に囁く。しかしそれでは困るのだ。
千夜子は、何としてもシャンプーを手に入れねばならないのだ。
「お気を付けて。」
深々とお辞儀で送り出しながら、
“お願いだから、また来てくださいよ。”と、念じた。
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