昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十ニ)の一と二

2012-08-03 22:15:28 | 小説

(一)

小夜子の変事を外出先で聞かされた武蔵、その足で自宅へ戻った。

「大丈夫だぞ、もう。話してみろ、何があった?」
「アーシアがね、」
「アーシアがどうした? 」

“やれやれ、又アーシアと来たか。
何者だ、アーシアってのは。
調べなくちゃいかんな、本格的に。”

少々辟易している武蔵だが、可愛い小夜子のためと我慢の子だ。

「来ないの、来てくれないの。
淋しいから来て欲しいって、言ってるの。
でもね、会えないの、もう。」

“来ないだ? 約束でもして……
そう言えば、そんなことを言っていたな。
それが、会えないとはどういうことだ? ”

どうにも要領を得ない。
ベッドの端に腰をかける武蔵。

「小夜子、こっちにお出で。
詳しく話してくれ、手助けしてやれるかもしれん。」

小夜子を膝に乗せて、髪を指ですいてやった。

「ねっ!タケゾー、タケゾー。
アーシアを助けてあげて。」

初めてのことだ。
名前で呼ぶことなぞ、一度たりともなかった。

熱のせいか? と思いはするが、つい顔がほころんでしまう。

「あぁいいとも。小夜子の頼みだ、何でも聞いてやるぞ。」
「ありがとう、タケゾー。」
「それでどこに居るんだ?」



(二)

また、大声で泣き叫び始めた。

「分かんない、分かんないの。
小夜子には、何も分からないの。

小夜子がね、英会話がだめだからね、アーシアは手紙をくれないの。

小夜子がね、学校をおさぼりなんかしたものだから、アーシアが怒ってるの、きっと。」

「そんなことないさ。
そのアーシアも、忙しくてだめなのさ。」

「そうよね、そうよね。
アーシア、世界中を旅してるから、お手紙書く暇がないのよね。」

「そうとも、そうに決まってる。」

「ショーにね、来るはずだったの。
でも来ないの。淋しい淋しいって呼んでるの。
あたし、行ってあげなきゃ。」

「そうだな、小夜子は優しいからな。」

「タケゾー、連れてって。
アーシアの所に連れてって。」

すがりつくような目で、武蔵を見上げる小夜子。
打ちひしがれた小夜子に、武蔵の想いは更に強まった。

「よし。それじゃ、一緒に探すか?」

「うん、探そうね。
待ってるの、アーシアは。
小夜子早く見つけてって、呼んでる。」

「よし、それじゃ、もうひと眠りしろ。
起きたら探しに行こう。」

ゆっくりと体を横たわらせて、静かな寝息を立てる小夜子を見守った。


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