昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (七) 床に顔が映りそうだ。

2014-12-26 08:33:43 | 小説
「ひえぇっ! 床に顔が映りそうだ。おぉっと、レースのカーテンもある」

彼は部屋を見渡しながら、感嘆の声を上げた。
そしてベッド横の小さなテーブルを見つけた。
「やっぱりテーブルが居るよな」

ベッドを背にしながら、彼は座り込んだ。
甲斐甲斐しく動いていた貴子の動きが止まった。
「まあ、こんなところかな。色々言い出せば、キリがないし。後は少しずつ、買い足せばいいし」
「ありがとう、貴子さん。やっと、人間の住みかになりました」
彼はテーブルからずれると、正座をして深々と床に頭を擦り付けた。

「ちょっとお、やめてよ。大げさよ、それ」
振り向いた貴子は、慌てて彼の元に近づいた。そして床に置かれた彼の手を握ると、頭を上げさせた。
水仕事をしていた貴子の手は、冷たかった。
彼はその手を握り返すと、思わず貴子を引き寄せた。
不意のことに貴子のバランスが崩れ、崩れ落ちた。

「貴子さん…」
彼は貴子の目を覗き込むようにすると、そのまま唇を重ねた。
閉じられた貴子の唇に、彼の唇が軽く触れられた。
貴子の体から力が抜け、彼に全てを預けてきた。
彼は膝の上に貴子を抱きかかえると、更に強く唇を押しつけた。
突然、貴子の体が痙攣を起こし始めた。貴子の意志ではなく、トラウマからの拒否反応だった。
彼は慌てて、貴子の唇から外した。

「ごめんね、、わたし…」
消え入りそうな貴子の声だった。
「あなたのこと、好きよ。うぅーん、大好き。でも、だめなの。
気持ちとは裏腹に、体が拒否反応を起こすの。ごめんね」


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