昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (七) 合い鍵を渡すよ

2014-12-25 09:06:07 | 小説
大学の講義が終わると同時に、彼は学友からの誘いを全て断って飛び帰った。
火曜日の今日はデパートの公休日で、貴子がアパートに来ている筈だった。
「合い鍵を渡すよ」と言う彼に、溢れんばかりの笑顔で受け取ってくれた貴子だった。

昨夜、乱雑に置かれていた荷物を遅くまでかかって、片づけた彼だった。
一度はキチンと整理したものの、
「あまり整理された部屋だと、他に女性が居るのでは? と誤解されるゾ」
と言う、助言を思い出した。
そこで“少しは、ちらかしておくか”と思い直し、CDやら雑誌類を無造作に床に投げ出した。
ベッドの上に下着類を置いたものの、さすがに“これは、まずい”と、洗濯物かごの中に放り投げた。

「ただいまあ!」
「お帰りい!」
明るい返事に、彼は胸がキュン! となった。
昨日は無言の帰宅であり、真っ暗な部屋は寒々としていた。

“待っててくれる女性が居るのは、いいもんだなあ”と、上がり口で立ち止まった彼だった。
すぐにも上がり込んでくると思っていた貴子は、彼のそんな態度を訝しげに感じた。
「どうしたの?」
「ごめん、ごめん。自分の部屋じゃないような気がして」

彼は頭を掻きつつ、貴子に近づいた。
真っ白なエプロン姿の貴子は、デパートでの貴子とは別人のように思えた。
より女性らしさを漂わせていた。

「いゃあ、見違えたなあ。貴子さんも、女性なんだあ」
彼は、照れ隠しからそんな軽口を叩いた。
「ちょっとぉ、随分ね!」
言葉とは裏腹に、貴子の目は笑っていた。

♪ふん、ふん♪と、鼻歌まじりに買いそろえてきた食器類を、小さな戸棚に並べた。
部屋の中はキチンと整理され、床もピカピカに磨かれていた。


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