昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十六) 小売業者側の、作戦勝ち

2014-05-14 21:07:42 | 小説
(七)

しかしながらこの計画も、結局は頓挫してしまった。
組合ができはしたものの、単なる親睦団体的存在にすり替わってしまった。

百貨店側とタッグを組んだ小売業者側の脅しに、簡単に腰砕けになってしまった。
交渉相手を武蔵とせずに山勘とした小売業者側の、作戦勝ちだった。

表面には出ずに裏で山勘ら幹部を恫喝した百貨店側の狡猾さに、
老舗だと胡坐をかく山勘では相手にならなかった。

そんな早々と白旗を上げた山勘に対し一部の業者が徹底抗戦を訴えだが、その業者たちも飴とムチ作戦に陥落してしまった。
一人孤軍奮闘した武蔵だったが、死屍累々の屍を越えて行き続けるのは無理だった。

とどめは、百貨店側からの仕入先への恫喝だった。
業を煮やした百貨店側が、製造メーカーとの直接交渉に入った。

そのことがかえって、単なる一卸業者に過ぎぬ富士商会ではあるけれども、
無視できぬほどの力を持つに至っている証明ともなった。

結局のところ、メーカーの仲介では武蔵も折れざるを得ない。
しかし何らかの制裁を求める百貨店側だったが、その横暴さに忸怩(じくじ)たる思いがメーカーにもあり、逆に富士商会への優遇が決められた。

バックマージンの利率アップがもたらされた。
それを聞き知った他の業者たちが、武蔵を責め立てた。

「このことを狙ってのことか!」と、息巻く業者もいた。
「そんな姑息なことをする男だと思うのか!」

武蔵の一喝で、そんな非難も尻すぼみとなった。
しかしこの事もまた、武蔵への怨嗟の一つにはなった。
勿論、小売業者側にも恨みは残った。


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