昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十七) 四

2013-09-30 18:45:26 | 小説
(四)

憤慨している武蔵に、
「タケゾーだって、そうじゃないの」と、小夜子が笑った。

「小夜子は特別だ。
小夜子は、お姫さまだからな。

会社の連中、皆が口を揃えて言ってるぞ。

『お姫さまは、お元気ですか?』とか、
『またお出でくださるよう、お願いしてくださいよ』なんて。

毎日だ、いい加減、耳にタコができてしまった。
ほら、ほら、どうだ。耳の穴を覗いてみてくれ。

できてるだろ? 大きいのが。見えないか、見えないか?」
と、耳を突き出す。

「やめてよ、もう。
分かったわよ、夜にでも耳掃除してあげるから。

あの振袖を着るのなら、小物入れの筥迫を新調しなくちゃ。
今のじゃ、地味すぎるわ。

それに、巾着も新調しようっと。えぇっと、それから……」

「分かった、分かった。
それじや、百貨店の高井を明日にでも呼んでやるよ。

適当に見つくろって持って来させるから。
その中から、好きなのを選ぶといい」


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