(二)
「山本さん、こちらにどうぞ。
手が冷たいですね、外は寒かったですか?」
と、優しく声をかけてくれる。
何という心優しき看護婦、いや天女様か。
その昔天女様の羽衣を隠したという不心得者がいたけれども…いやいや、その心内、良く分かる。
いっそこのまま道行きを、と思わせる優しい天女様だ。
「お待たせ、お婆ちゃん。」
「早よして貰わんと、どうにもならんぞ。
みんなでお昼を食べることになっちょるのに。」
何という毒々しい言葉を吐く婆ぁだ。
目を開けることができたなら、ジロリと睨み付けてやるものを。
「こんなに度の強いコンタクトって……」
「ごめんなさい、お友だちのレンズを…。
黒板の文字が少し見にくくて。
前の方の席に行くの、嫌だったから…。」
医者の言うことを聞かぬ小娘め、私の娘なら怒鳴りつけてやるものを。
少しは医者に対する畏敬の念を持てないものか。
憤慨する私だったが、まさかこの後にあのようなことになるとは、思いも寄らぬことだった。
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