大広間に集まった社員の前で、えびす顔の武蔵が声を上げた。
「みんな、ご苦労だった。良く頑張ってくれた。
加藤専務には、ほんとうに苦労をかけた。
感謝したい、ありがとう。
みんなの入院中の頑張りについては、加藤専務から報告があった。
苦しい中、良く残ってくれた。良く耐えてくれた。そのお陰で、会社は残れた。
本来ならもっとお前たちに還元してやりたいんだが、この景気がいつまでも続くわけがない。
以前の俺なら、どーんと弾むところだが、入院中に色々考えた。
やはり、会社自体に少しは利益を残しておかないとな。
もう二度と、あんな思いはたくさんだ」
武蔵の顔が苦渋に満ちたものに変わった。
社員たちもまた、下を向いたり上を向いたりと、それぞれに思いを馳せた。
「いや、すまんすまん。楽しい席での言葉じゃなかったな。勘弁してくれ」
武蔵の言葉を遮るように、大広間のあちこちから「社長の責任じゃないですから」と、声が上がった。
期せずして「社長バンザイ! 富士商会バンザーイ!」と一斉に大合唱となった。
「実のところ今回の慰安旅行の発案は、加藤専務だ。
正直、俺は渋ったんだがな。しかし今は、みんなの笑顔を見ていると、大正解だったな。
とに角今夜は、思いっきり飲んで食べて、そして騒げ。
但し男どもは、程々にしておけよ。
どうせ、外に繰り出すだろうからな。
番頭に言ってあるから、楽しんで来い。
女性陣は、たらふく食べろ。新鮮な魚介類を、たっぷりと用意させてあるからな。
以上だ。みんな、ホントにご苦労さんだった」
思いもかけぬ武蔵の言葉に、五平は我が耳を疑った。
慰安旅行の発案は武蔵であるのに、五平の進言だと、はっきり告げられたのだ。
然も、渋る武蔵を説得したかの如き言葉に、社員全員の視線が五平に集まった。
武蔵に促されて、五平が立ち上がった折には、大広間が揺れるほどの拍手が沸きあがった。
「社長は、私の手柄の如くに言って下さったが、そんなことはない。
みんなの頑張りがあったから、こそだ。
社長は、利益を一人占めするような人じゃない。
頑張れば頑張っただけのことは、きっとしてくださる。
これからも一丸となって、社長に付いて行こうじゃないか。
と言うころで、乾杯しょう。かんぱーい!」
二十人近い芸者たち全員が、武蔵の意向もあり社員の輪の中に入っていた。
始めのうちこそ照れくさそうな表情をしていたのだが、次第に酔いが回るにつれて、飲めや歌えのドンちゃん騒ぎとなった。
そんな中、五平が武蔵の前に陣取った。
「社長! 死ぬまで、ご奉公しますぜ。今夜ほど、うれしいことはないです。
こんなどうしょうもない男に、あんなに気をつかっていただけけるとは。
惚れました、いや、惚れなおしました」
感涙に咽びながら、五平は武蔵に深々と頭を下げた。
「五平。止めろ、もう。頭を上げろ!」
「いや、頭を上げられません。涙が、止まらんのです。
こんな、みっともない顔、社長に見せるわけにはいかんのです」
「それじゃ、酒が飲めんだろうが。
いま思いついたんだが、どうだ、この床の間に徳利を並べてみんか。
徳利で、埋めつくそうじゃないか」
「そうですな、飲みあかしますか。どちらが先に飲みつぶれるか、一つ勝負しますか」
「みんな、ご苦労だった。良く頑張ってくれた。
加藤専務には、ほんとうに苦労をかけた。
感謝したい、ありがとう。
みんなの入院中の頑張りについては、加藤専務から報告があった。
苦しい中、良く残ってくれた。良く耐えてくれた。そのお陰で、会社は残れた。
本来ならもっとお前たちに還元してやりたいんだが、この景気がいつまでも続くわけがない。
以前の俺なら、どーんと弾むところだが、入院中に色々考えた。
やはり、会社自体に少しは利益を残しておかないとな。
もう二度と、あんな思いはたくさんだ」
武蔵の顔が苦渋に満ちたものに変わった。
社員たちもまた、下を向いたり上を向いたりと、それぞれに思いを馳せた。
「いや、すまんすまん。楽しい席での言葉じゃなかったな。勘弁してくれ」
武蔵の言葉を遮るように、大広間のあちこちから「社長の責任じゃないですから」と、声が上がった。
期せずして「社長バンザイ! 富士商会バンザーイ!」と一斉に大合唱となった。
「実のところ今回の慰安旅行の発案は、加藤専務だ。
正直、俺は渋ったんだがな。しかし今は、みんなの笑顔を見ていると、大正解だったな。
とに角今夜は、思いっきり飲んで食べて、そして騒げ。
但し男どもは、程々にしておけよ。
どうせ、外に繰り出すだろうからな。
番頭に言ってあるから、楽しんで来い。
女性陣は、たらふく食べろ。新鮮な魚介類を、たっぷりと用意させてあるからな。
以上だ。みんな、ホントにご苦労さんだった」
思いもかけぬ武蔵の言葉に、五平は我が耳を疑った。
慰安旅行の発案は武蔵であるのに、五平の進言だと、はっきり告げられたのだ。
然も、渋る武蔵を説得したかの如き言葉に、社員全員の視線が五平に集まった。
武蔵に促されて、五平が立ち上がった折には、大広間が揺れるほどの拍手が沸きあがった。
「社長は、私の手柄の如くに言って下さったが、そんなことはない。
みんなの頑張りがあったから、こそだ。
社長は、利益を一人占めするような人じゃない。
頑張れば頑張っただけのことは、きっとしてくださる。
これからも一丸となって、社長に付いて行こうじゃないか。
と言うころで、乾杯しょう。かんぱーい!」
二十人近い芸者たち全員が、武蔵の意向もあり社員の輪の中に入っていた。
始めのうちこそ照れくさそうな表情をしていたのだが、次第に酔いが回るにつれて、飲めや歌えのドンちゃん騒ぎとなった。
そんな中、五平が武蔵の前に陣取った。
「社長! 死ぬまで、ご奉公しますぜ。今夜ほど、うれしいことはないです。
こんなどうしょうもない男に、あんなに気をつかっていただけけるとは。
惚れました、いや、惚れなおしました」
感涙に咽びながら、五平は武蔵に深々と頭を下げた。
「五平。止めろ、もう。頭を上げろ!」
「いや、頭を上げられません。涙が、止まらんのです。
こんな、みっともない顔、社長に見せるわけにはいかんのです」
「それじゃ、酒が飲めんだろうが。
いま思いついたんだが、どうだ、この床の間に徳利を並べてみんか。
徳利で、埋めつくそうじゃないか」
「そうですな、飲みあかしますか。どちらが先に飲みつぶれるか、一つ勝負しますか」
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