鮨店の座敷に上がりこんだ武蔵は、小夜子の酌での酒を楽しんだ。
「いゃあ、小夜子の酌で飲む酒は格別だ。同じ酒でも、まるで味が違う」
「ホント? 美味しい? あたしも、少し飲んでみようかな?」
上目遣いで、手を休めて言った。
「よし、飲んでみるか?」
武蔵は新しいお猪口を持って来させた。
半分ほど注がれたところで手を止めた武蔵に対して「いっぱい、入れて!」と、小夜子が不満げな顔を見せた。
「ハハハ、まっ、少し飲んでからだ」
「いや! 飲めるわよ、その位は」
「分かった、分かった」
小夜子は溢れんばかりに注がれたお猪口を、恐る恐る口に運んだ。
半分ほどを口に入れた途端、ぶっ!と 吐き出した。
「辛い! なにこれ、ちっとも美味しくないわ」
眉間にしわを寄せて、武蔵をじっと見つめた。
武蔵はニタニタと笑いながら「おいおい、勿体ないぞ。まだ小夜子には、無理だな。大人になれば、この味がわかるさ」と、小夜子のお猪口を手に取った。
そして「どれどれ、小夜子と間接接吻でもするかな」と、一気に飲み干した。
「いやだ、間接接吻だなんて。しゃちょうさんの助平!」
はにかんだ表情を見せながらも、小夜子の目は笑っていた。
初対面時の嫌悪感は、今ではまるでない。小夜子の足長おじさんとして頼り甲斐のある男だと、感じていた。
「ねえ、しゃちょうさん」。甘えるような声で、「この間の話、覚えてる?」と、武蔵を覗き込んだ。
「なんだ? どんなことだ。言ってごらん」
「覚えてないの? 梅子姉さんが『お酒の席での話は、間に受けちゃだめ!』って言ってたけど、やっぱりか」
肩をすぼめる小夜子に対し、「言ってごらん。小夜子の頼みは、何でも聞いてやるから」と、身を乗り出した。
「あたし、一人暮らし、したいの。きゅうくつなのよ、今のお宅は。色々お小言を聞かされるしさ」
「そうか、お小言をな。夜の仕事だからな、小夜子みたいなおぼこ娘が、あんなナイトクラブで働いているんだ。
いくら煙草売りだとはいえ、なあ。まあ、それが当たり前だろうな」
「違うの! あたしが言いたいのはそんなことじゃない!」。
武蔵が加藤と同じ言葉を口にすると「女が社会で活躍することは、そんなにいけないことなの? 家に閉じこもっていろと言うの? そんなの、男の横暴よ」と怒りの言葉をぶちまけた。
平塚らいてふからの受け売り言葉を使い、如何に女性が虐げられているかとまくし立てた。
小夜子の頬は、ほんのりと赤みを差している。
吐き出した筈の酒に、少し酔ってしまったようだ。
それが小夜子を饒舌にしたともいえる。
「いゃあ、小夜子の酌で飲む酒は格別だ。同じ酒でも、まるで味が違う」
「ホント? 美味しい? あたしも、少し飲んでみようかな?」
上目遣いで、手を休めて言った。
「よし、飲んでみるか?」
武蔵は新しいお猪口を持って来させた。
半分ほど注がれたところで手を止めた武蔵に対して「いっぱい、入れて!」と、小夜子が不満げな顔を見せた。
「ハハハ、まっ、少し飲んでからだ」
「いや! 飲めるわよ、その位は」
「分かった、分かった」
小夜子は溢れんばかりに注がれたお猪口を、恐る恐る口に運んだ。
半分ほどを口に入れた途端、ぶっ!と 吐き出した。
「辛い! なにこれ、ちっとも美味しくないわ」
眉間にしわを寄せて、武蔵をじっと見つめた。
武蔵はニタニタと笑いながら「おいおい、勿体ないぞ。まだ小夜子には、無理だな。大人になれば、この味がわかるさ」と、小夜子のお猪口を手に取った。
そして「どれどれ、小夜子と間接接吻でもするかな」と、一気に飲み干した。
「いやだ、間接接吻だなんて。しゃちょうさんの助平!」
はにかんだ表情を見せながらも、小夜子の目は笑っていた。
初対面時の嫌悪感は、今ではまるでない。小夜子の足長おじさんとして頼り甲斐のある男だと、感じていた。
「ねえ、しゃちょうさん」。甘えるような声で、「この間の話、覚えてる?」と、武蔵を覗き込んだ。
「なんだ? どんなことだ。言ってごらん」
「覚えてないの? 梅子姉さんが『お酒の席での話は、間に受けちゃだめ!』って言ってたけど、やっぱりか」
肩をすぼめる小夜子に対し、「言ってごらん。小夜子の頼みは、何でも聞いてやるから」と、身を乗り出した。
「あたし、一人暮らし、したいの。きゅうくつなのよ、今のお宅は。色々お小言を聞かされるしさ」
「そうか、お小言をな。夜の仕事だからな、小夜子みたいなおぼこ娘が、あんなナイトクラブで働いているんだ。
いくら煙草売りだとはいえ、なあ。まあ、それが当たり前だろうな」
「違うの! あたしが言いたいのはそんなことじゃない!」。
武蔵が加藤と同じ言葉を口にすると「女が社会で活躍することは、そんなにいけないことなの? 家に閉じこもっていろと言うの? そんなの、男の横暴よ」と怒りの言葉をぶちまけた。
平塚らいてふからの受け売り言葉を使い、如何に女性が虐げられているかとまくし立てた。
小夜子の頬は、ほんのりと赤みを差している。
吐き出した筈の酒に、少し酔ってしまったようだ。
それが小夜子を饒舌にしたともいえる。
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