昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十一) あらあら、社長さま

2013-11-23 22:08:31 | 小説
(七)

「あらあら、社長さま」
「女将は、“あらあら”が好きだねえ」

「あらあら、申し訳ありません。
使わないようにと意識しておりましたのに、とうとう出てしまいました。

親しみを覚えます殿方には、ついつい。
お耳障りでございましたら、ご勘弁くださいまし」

「いや、勘弁できんね。
やっぱり、夜の露天風呂を一緒してほしいよ。

考えてみれば、一人で満天の星というのはl…。
ちと、淋しすぎると思うのだけれど。

どうやら今夜の僕は、日本一淋しい男になりそうだ。
実に悲しいことだ、実に。

いっそこの指を、がぶりと行こうか。
そうすれば女将に嫌われて、僕も観念できるかも」

口元までぬいの手を持ち上げた。

「あのお、女将さん。ちょっとよろしいでしょうか」

仲居のか細い声がする。
二人の痴話話が途切れることなく続くために、中々声をかけることが出来ずにいた。

「楽しくお話しているのに、何の用なの? 急ぐ話なのかい?」
眉間にしわを寄せて、きつい口調で答えた。

「女将、そりゃいかん。早く行っておやりなさい。
おふじさんだったね、悪かった。女将を長居させてしまったようだ」

「相すみませんことで。それでは何かご用がありましたら、何なりとお声をお掛けください。失礼致します」

なごり惜しげな表情を見せる、ぬい。
それが本心かどうか、武蔵にも判別できない。

“露天風呂が楽しみだよ、女将。
といって、ほいほいと来られでもしたら、幻滅することになるかもしれんな”


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