(七)
「あらあら、社長さま」
「女将は、“あらあら”が好きだねえ」
「あらあら、申し訳ありません。
使わないようにと意識しておりましたのに、とうとう出てしまいました。
親しみを覚えます殿方には、ついつい。
お耳障りでございましたら、ご勘弁くださいまし」
「いや、勘弁できんね。
やっぱり、夜の露天風呂を一緒してほしいよ。
考えてみれば、一人で満天の星というのはl…。
ちと、淋しすぎると思うのだけれど。
どうやら今夜の僕は、日本一淋しい男になりそうだ。
実に悲しいことだ、実に。
いっそこの指を、がぶりと行こうか。
そうすれば女将に嫌われて、僕も観念できるかも」
口元までぬいの手を持ち上げた。
「あのお、女将さん。ちょっとよろしいでしょうか」
仲居のか細い声がする。
二人の痴話話が途切れることなく続くために、中々声をかけることが出来ずにいた。
「楽しくお話しているのに、何の用なの? 急ぐ話なのかい?」
眉間にしわを寄せて、きつい口調で答えた。
「女将、そりゃいかん。早く行っておやりなさい。
おふじさんだったね、悪かった。女将を長居させてしまったようだ」
「相すみませんことで。それでは何かご用がありましたら、何なりとお声をお掛けください。失礼致します」
なごり惜しげな表情を見せる、ぬい。
それが本心かどうか、武蔵にも判別できない。
“露天風呂が楽しみだよ、女将。
といって、ほいほいと来られでもしたら、幻滅することになるかもしれんな”
「あらあら、社長さま」
「女将は、“あらあら”が好きだねえ」
「あらあら、申し訳ありません。
使わないようにと意識しておりましたのに、とうとう出てしまいました。
親しみを覚えます殿方には、ついつい。
お耳障りでございましたら、ご勘弁くださいまし」
「いや、勘弁できんね。
やっぱり、夜の露天風呂を一緒してほしいよ。
考えてみれば、一人で満天の星というのはl…。
ちと、淋しすぎると思うのだけれど。
どうやら今夜の僕は、日本一淋しい男になりそうだ。
実に悲しいことだ、実に。
いっそこの指を、がぶりと行こうか。
そうすれば女将に嫌われて、僕も観念できるかも」
口元までぬいの手を持ち上げた。
「あのお、女将さん。ちょっとよろしいでしょうか」
仲居のか細い声がする。
二人の痴話話が途切れることなく続くために、中々声をかけることが出来ずにいた。
「楽しくお話しているのに、何の用なの? 急ぐ話なのかい?」
眉間にしわを寄せて、きつい口調で答えた。
「女将、そりゃいかん。早く行っておやりなさい。
おふじさんだったね、悪かった。女将を長居させてしまったようだ」
「相すみませんことで。それでは何かご用がありましたら、何なりとお声をお掛けください。失礼致します」
なごり惜しげな表情を見せる、ぬい。
それが本心かどうか、武蔵にも判別できない。
“露天風呂が楽しみだよ、女将。
といって、ほいほいと来られでもしたら、幻滅することになるかもしれんな”
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