昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[舟のない港](七十)

2016-07-07 09:18:57 | 小説
 ベージュ系の家具で統一された、落ち着いた部屋だった。
男のアパートとは雲泥の差である。
ソファに座ると、深々と身体が沈んでしまう。
座りなれない男は、落ち着かなかった。

 夫人の差し出すブランデーを、「舌で転がすように口に含みなさい」 という指示通りにした。
「ブランデーは香りを楽しむものよ」と言われる通り、確かにいい香りだった。

「もうわかったでしょう? 私の浮気隠しなの。
騒いでおけば、私のことは追求されないの。
多分、離婚にまで行くでしょうからね。
ふふふ、女は恐いのよ」

 なまめかしく、夫人の目が男をなめ回した。
男には、初めての経験だった。
身体中に電気が走ったような感覚だった。
その目だけで、男は快感を覚えた。
心臓の鼓動が、大きく耳に鳴り始めた。

「ふふふ、こんなおばさんもいいものよ。
いらっしゃい、シャワーでも浴びましょう」 
男は、催眠術にでもかかったように、ふらふらと立ち上がった。
抗うことはできなかった。

 男はぐったりとなった。為されるがままだった。
そして、何度果てたことか。心地よい虚脱感の中に、男は居た。
「さあ、今度は私の番ね」と、男を誘った。
「もう無理です、これ以上は」と、尻込みする男だったが、夫人の魔法の指は、男を蘇らせた。


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