(三)
ハンカチで額の汗を拭いながらの、弁解に終始する正三だった。
しかし小夜子の耳には、正三の声はまるで入っていない。
許しを請う正三の様を、ただただ見ていた。
「やっぱりあの女性との情交で、大人になられたのね。」
突然の、まるで予期せぬ小夜子の問いかけ。
唖然とする正三だ。
“な、なんだ? どういうことだ?
小夜子さん、あなたは知っているのですか、あの芸者のことを。
ま、まさか、叔父さんが……”
正三の慌てふためく様を見た小夜子、怒りの思いが込み上げてきた。
“やっぱりなのね。
タケゾーの見立てが当たったのね。
商売女との情交だろうと言うタケゾーの言葉、ホントなのね。”
己の操を奪われてしまった小夜子の、先制攻撃のようなものだ。
奪われた?
そう、小夜子はそう考えている。
小夜子の意思を無視した武蔵の蛮行だと、己に言い聞かせている小夜子だ。
抵抗をしなかったのは、万端やむなきこと故とする小夜子だ。
そんな小夜子の思惑についぞ気付かぬ正三、しどろもどろの返事となってしまった。
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