昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十五)の三

2013-03-07 20:33:25 | 小説

(三)

ハンカチで額の汗を拭いながらの、弁解に終始する正三だった。

しかし小夜子の耳には、正三の声はまるで入っていない。
許しを請う正三の様を、ただただ見ていた。

「やっぱりあの女性との情交で、大人になられたのね。」

突然の、まるで予期せぬ小夜子の問いかけ。
唖然とする正三だ。

“な、なんだ? どういうことだ? 

小夜子さん、あなたは知っているのですか、あの芸者のことを。
ま、まさか、叔父さんが……”

正三の慌てふためく様を見た小夜子、怒りの思いが込み上げてきた。

“やっぱりなのね。
タケゾーの見立てが当たったのね。

商売女との情交だろうと言うタケゾーの言葉、ホントなのね。”

己の操を奪われてしまった小夜子の、先制攻撃のようなものだ。

奪われた? 
そう、小夜子はそう考えている。

小夜子の意思を無視した武蔵の蛮行だと、己に言い聞かせている小夜子だ。
抵抗をしなかったのは、万端やむなきこと故とする小夜子だ。

そんな小夜子の思惑についぞ気付かぬ正三、しどろもどろの返事となってしまった。


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