昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十六) 富士商会の攻撃

2014-05-05 13:04:08 | 小説
(一)

翌日からの富士商会の攻撃は素早かった。
営業、配達を問わず事務職の者までもが対応して、
瞬く間に日の本商会が食い込もうとしている取引先を洗い上げた。

「ふーん、思ったよりやるじゃないか。六割強か、取引先の。
早晩、全部に回られるな。予想以上の範囲だな、こりゃ。危なかったな、これは。

全取引先に知れ渡るのも、時間の問題か。口止めの効果はなしだな。
よし、すぐにおまけ作戦にとりかかれ。

全取引先だ、一部先行して云々と言う言い訳はなしだ。
そうだな。取りあえずは、向こう二ヶ月間としろ。

それで、様子見だ。相手の動きを見て、後は考える。
いいか、どんな些細なことでもいいから、逐一報告しろ。

疑問符の付く情報でも構わん。その真偽は、俺が調べるから。
お前たちは、とに角情報を集めろ。暫くは、新規開拓はなしだ。

どんなに大口でもだめだ。『現取引先様だけの特典ですので』と、丁重に断れ。
その代わり、過去において一度でも、どんなに小額でも取引があった店なら良しだ。

どんなに小さな個人商店でも構わんぞ。『喜んでお届けします』と言え。
それからもう一つ。これが一番大事なことだが」

大きく息をついて、ぐるりと見回した。
総勢、何名になったのか。にわかには思い出せない。

わずかな人数で立ち上げた富士商会だったが、瞬く間に大所帯に膨れ上がった。
雇い入れた者の中には、他の店から強引に引き抜いた者もいる。

切れ者と噂される者ではなく、もてあまし気味にされていた者を選んで呼び入れた。
「あんなごくつぶしばかり集めてどうすんのかねえ」

陰口を叩かれることばかりだったが、武蔵は一切気にしない。






最新の画像もっと見る

コメントを投稿