なにかを言わねば、慰めのことばをかけなければ。
“勝子ねえさんだったらどういうだろう、どうお慰めするだろう”。
思えばおもうほど、考えればかんがえるほど、ことばが逃げていってしまう。
“社長、しゃちょう。お姫さまのところへ戻ってきてください。
信じてらっしゃいますよ、小夜子奥さまは”。
やはり祈るだけしかできない竹田だった。
「社長はねえ、つねづね言ってらっしゃった。
『小夜子に勝る宝物はねえよ。おれがこんなに女ごときに惚れちまうとは、思いもよらねえことだぜ』ってね。
小夜子奥さまに会わずに逝かれることはありません、ぜったいにね。
いや、あっちゃならねえことです。戻られますって、ねえ。
今日だって、『武士坊ちゃんにおもちゃを買うんだ』って、そう言って出られたんですよ」
五平のことばに意を強くした竹田もまた、「そうでした、おもちゃです」とつづけた。
「そう、そうなの。なんで百貨店なんかに、そう思ってたけど、またおもちゃなの?
もういっぱいなのよ、足の踏み場もないくらいなのに。
またおもちゃ? 武蔵らしいわね。あたしのときもそうだった。
もういらないっていうのに、鞄だ、靴だ、帽子だって。
そうなのよね、武蔵は愛情表現がへたなのよね。
お金をつかうことばっかり考えて」
気持ちが落ちついてきた小夜子だった。
愛情表現がへただと言い切った小夜子だが、己自身にも当てはまると思う小夜子だった。
“そういえば、あたしも武蔵に、はっきりと自分の気持ちをつたえてなかったわ”
“だめだめだめよ、あなた。あたしにも言わせて、しあわせよって”
はじめて、武蔵ではなく、おじさんではなく、「あなた」ということばをつかった小夜子だった。
「竹田。なんで、なんでなの? なんで刺されなくちゃいけなかったの!」
疑問の問いかけが、さいごには怒りのことばに変わった。
「だれなの、犯人は。目星ぐらいはついてるんでしょ!
そりゃねえ、あこぎな商売をしてるのはわかってる。
まともな商売なら、こんなにあたしに贅沢なんかさせられないわよ。
近所でもうわさにのぼってるのは、あたしにだってわかるわよ。
でも、殺されかけるほどのことなの? 商売上なら商売で勝負しなさいよ!」
「そのとおりです。小夜子さん(お姫さま)のおっしゃるとおりだ(です)」。
五平と竹田のことばがかぶさった。
「あなたたちって、似たもの同士なの? おんなじことを言って。
竹田。あなた、もうすこし気の利いたことはいえないの?
そんなじゃ、お嫁さんの来てがないわよ」
小夜子から手きびしいしっぺがでた。
しかし竹田はうれしかった。“それでこそおひめさまだ”と、こころの中でつぶやいた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます