昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (十一) 他の女性とも相合い傘したの?

2015-04-11 11:54:56 | 小説
耀子のマンションまでの道すがら、降りしきる雨は止むことがなかった。
耀子の持参した傘は小さく、彼の体の半分が濡れていた。
〝そういえば、牧子さんの時もこんな具合だったな〟
思わず苦笑する彼に、耀子が肘で彼の脇腹をつつきながら尋ねた。

「なあに? 思い出し笑いしてえ。もしかして、他の女性とも相合い傘したの?」
耀子の鋭い問いかけに、
「おおっと! わかりますか。実はですねえ、くくく。
ホントは、そんな色気のある話じゃないんです。
吉田君と相合い傘をしたんです。その時に傘を引っ張り合いしまして、柄が取れちゃったんです」
と、思わず誤魔化してしまった。
しかし、まるで嘘というわけではない。
実際に、吉田との傘の取り合いがあったのだ。

「そう、そうなの。彼の力だったら、あり得るかもね。キャッ!」
奇声と共に、耀子がしがみついてきた。
水たまりの中に足を入れてしまい、スニーカーが水浸しになってしまった。
「嫌だあ、もう。まだ、おニューなのに。ついこの間、買ったばかりなのよ。あゝ、もう」
鼻に小じわを寄せながら、如何にも恨めしそうに呟いた。

「おんぶしましょうか? 歩けないでしょう」
半ば冗談の積もりで言った彼の言葉に、
「そうねえ。人通りもないことだし、頼もうかしら」
と、予想外の言葉が返ってきた。
今更、冗談ですよとも言えず、彼はその場にしゃがみこんだ。

「いやあねえ、もう。冗談よ、冗談。本気にしないで。これでも、うら若き女性なんですから、ね」
快活に笑いながら、耀子は彼の肩を思いっきり叩いた。


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