(一)
久しぶりの武蔵とのお出かけにも関わらず、今日の小夜子は不機嫌だった。
どうにも気ずつなさが取れないでいた。
いつもならば武蔵の腕にしがみつく小夜子が、一人でさっさと前を行く。
三歩下がって云々など、まるで気にも留めない小夜子だ。
銀座を闊歩する多くの女性たちも、皆一様に視線を注ぐ。
ひそひそと叩かれているであろう陰口などは、小夜子にとっては賛辞以外の何物でもない。
「小夜子。どうしたんだ、小夜子。今日はえらく不機嫌じゃないか。
何か、あったのか? 専務に厭味でも言われたか? それとも、お腹でも痛いのか?」
からかい半分に声をかけた武蔵に、眉間にしわを寄せて小夜子が答えた。
「武蔵がゆっくり過ぎるのよ! 男でしょ、早足で歩きなさいよ!」
「おう、そいつは悪かった」
と、こいつはやぶ蛇だったと小夜子の歩に合わせる。
武蔵の温もりが、じんわりと小夜子を包み始める。
小夜子の手を、いつものように腕に取った武蔵。
「小夜子、少し熱があるんじゃないか?
医者を呼ぶか? ここのところ引っ張りまわし過ぎたからな。帰ろう、小夜子」
確かに熱っぽさを感じてはいる。しかし武蔵が言うほどにおお事ではない。
ふっと気を入れればどこかに飛んでいきそうな、その程度の熱だ。
この後、武蔵とのお出かけがいつあるかも分からぬ小夜子には、
多少の疲れなど気にしていられない。
「武蔵は、あたしとのお出かけは嫌なの!
それとも、お疲れなのかしら? 武蔵も、年を取ったものね」
と、皮肉たっぷりに小夜子が言う。
「冗談言うな! 疲れなんかあるもんか!
ひと晩寝れば、十分に回復してるさ。
それに、昨夜はたっぷりと、小夜子から力をもらったことだし。
小夜子を抱くと、力が漲ってくるんだ」
久しぶりの武蔵とのお出かけにも関わらず、今日の小夜子は不機嫌だった。
どうにも気ずつなさが取れないでいた。
いつもならば武蔵の腕にしがみつく小夜子が、一人でさっさと前を行く。
三歩下がって云々など、まるで気にも留めない小夜子だ。
銀座を闊歩する多くの女性たちも、皆一様に視線を注ぐ。
ひそひそと叩かれているであろう陰口などは、小夜子にとっては賛辞以外の何物でもない。
「小夜子。どうしたんだ、小夜子。今日はえらく不機嫌じゃないか。
何か、あったのか? 専務に厭味でも言われたか? それとも、お腹でも痛いのか?」
からかい半分に声をかけた武蔵に、眉間にしわを寄せて小夜子が答えた。
「武蔵がゆっくり過ぎるのよ! 男でしょ、早足で歩きなさいよ!」
「おう、そいつは悪かった」
と、こいつはやぶ蛇だったと小夜子の歩に合わせる。
武蔵の温もりが、じんわりと小夜子を包み始める。
小夜子の手を、いつものように腕に取った武蔵。
「小夜子、少し熱があるんじゃないか?
医者を呼ぶか? ここのところ引っ張りまわし過ぎたからな。帰ろう、小夜子」
確かに熱っぽさを感じてはいる。しかし武蔵が言うほどにおお事ではない。
ふっと気を入れればどこかに飛んでいきそうな、その程度の熱だ。
この後、武蔵とのお出かけがいつあるかも分からぬ小夜子には、
多少の疲れなど気にしていられない。
「武蔵は、あたしとのお出かけは嫌なの!
それとも、お疲れなのかしら? 武蔵も、年を取ったものね」
と、皮肉たっぷりに小夜子が言う。
「冗談言うな! 疲れなんかあるもんか!
ひと晩寝れば、十分に回復してるさ。
それに、昨夜はたっぷりと、小夜子から力をもらったことだし。
小夜子を抱くと、力が漲ってくるんだ」
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