昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~ (九十三) 今、反省しているところだ

2014-07-31 09:11:03 | 小説
(十三)

「帝王切開って。あの、お腹を切るってやつですか?」

「あぁ。母体が危ないと判断したら切りますから、ご了解くださいだとさ。書類に署名もさせられた」

「そうですか、それはそれは。ちと、大事にされすぎましたね。仇になったってわけですか」
「うん、考え違いをしたよ。小夜子にも赤子にも、悪いことをしてしまった。今、反省しているところだ」

「ましかし、医者に任せるしかないでしょう。それにあの医者は、名医だって話ですし。
大丈夫ですよ、きっと。切らずに済みますって。
ケロッとして、そんな話しましたか? って顔で、医者が出てきますって」

「あぁ、そう願ってるよ。さてと、それじゃ帰るとするかな。
ここに居たって、何もすることもないしな。明日は忙しいことだし。
確か、午前に二社と午後に一社来るんだったよな?」

腰を浮かせる武蔵を五平が押し留めた。
「そりゃ、そうですが。何でしたら、日を改めてもらえるようお願いしますが」

頭を振りながら
「馬鹿を言うな。小夜子はお産、俺は商売だ。
稼がなきゃ、小夜子は怒るだろうさ。これからまた、金がかかるだろうからな」
と、受けあわない。

通りかかった看護婦を呼び止めて
「看護婦さん。この名刺を産科の婦長に渡してもらえないか。
裏に自宅の電話番号を書いてある。よろしく頼むよ」と、頼み込んだ。

「分かりました、婦長に渡しておきます。
あ、差し入れをありがとうございました。みんなで美味しくいただきました。
分娩室の看護婦たちは、交代時にいただきます」
と、深々と礼をした。

「おう、産科の看護婦さんか。小夜子の面倒、頼むよ。
我ままな女だから面倒をかけると思うけれど、よろしくな」
と、今度は武蔵が頭を下げた。


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