(五)
「なんだ、何かあったか?」
「はい、姉が……。
今連絡が入りまして……。」
「姉さんがどうした? 悪化したのか?
大学病院に移ったんだ、悪くなるわけはないだろうに。」
「いえ、それが……」
「歯切れが悪いな。
結核なんて、きちんとした薬を飲んで栄養をしっかり取れば大丈夫さ。」
「それが……」
「加、いや。おい、専務!
ちょっと来い!」
隣に部屋を構える五平を、大声で呼びつけた。
普段は加藤専務と呼んでいるのだが、それでは小夜子の反応が気になる。
「どうしました。なんだ、竹田。どうしたんだ?」
押っ取り刀で五平が来た。
「お前、何をやってる! 竹田の姉さんの容態が悪くなったらしいぞ。
医者に鼻薬は利かせたんだろうな。」
「勿論ですよ、社長。
たんまりと弾んでありますって。」
武蔵の剣幕に、驚く五平だ。
事の次第がまるで見えず、困惑してしまった。
「実は、入院していないんです。
自宅療養しているんです。」
「何だと!」
二人が同時に怒鳴った。
「申し訳ありません、母が猛反対しまして。」
「五平! 説得できたんじゃなかったのか!」
「いや、それは……。
確かに納得してくれた筈ですが。」
首を傾げつつ、竹田に目を向ける。
(六)
「社長、専務が悪いんじゃないです。
一度は母も納得したんです。
ところが翌日に霊能師がやってきまして、また説得されたみたいなんです。
昼間のことで、母一人だったものですから。」
「よし、こうなったら実力行使だ。
五平! 今から行って、入院させろ。
誰がなんと言おうと、入院だ。
救急車だぞ、いいな! 母親が反対しても、強行だぞ。
竹田、いいな。お前が引っ張るんだぞ、これからは。」
「うっうっうぅぅ。」
突然、小夜子の泣き声が、武蔵の耳に入った。
「な、なんだ? 小夜子を叱ったわけじゃないぞ。
泣くな、小夜子。
俺が悪かった。な、な、泣くな。」
オロオロとする武蔵を見た竹田、信じられぬ思いだ。
五平の渋い顔が、凝視していた竹田の視線を外させた。
「違うの、お姉さんがお可哀想で。
タケゾー、きっとね。面倒を見てあげてね。
うん、そうだわ。病院では、あたしがお世話するわ。
あたしの母が労咳を患ったの。
だから多少の心得はあるのよ。」
母に抱かれた記憶がない小夜子。
近付くことさえ許されなかった小夜子。
労咳と言う病が憎くて堪らない。
「そうだったな、小夜子のお母さんも結核だったな。
しかし今は、特効薬も手に入る。
しっかり養生すれば大丈夫だ。
よし、すぐに行け。専務、頼むぞ。」
「なんだ、何かあったか?」
「はい、姉が……。
今連絡が入りまして……。」
「姉さんがどうした? 悪化したのか?
大学病院に移ったんだ、悪くなるわけはないだろうに。」
「いえ、それが……」
「歯切れが悪いな。
結核なんて、きちんとした薬を飲んで栄養をしっかり取れば大丈夫さ。」
「それが……」
「加、いや。おい、専務!
ちょっと来い!」
隣に部屋を構える五平を、大声で呼びつけた。
普段は加藤専務と呼んでいるのだが、それでは小夜子の反応が気になる。
「どうしました。なんだ、竹田。どうしたんだ?」
押っ取り刀で五平が来た。
「お前、何をやってる! 竹田の姉さんの容態が悪くなったらしいぞ。
医者に鼻薬は利かせたんだろうな。」
「勿論ですよ、社長。
たんまりと弾んでありますって。」
武蔵の剣幕に、驚く五平だ。
事の次第がまるで見えず、困惑してしまった。
「実は、入院していないんです。
自宅療養しているんです。」
「何だと!」
二人が同時に怒鳴った。
「申し訳ありません、母が猛反対しまして。」
「五平! 説得できたんじゃなかったのか!」
「いや、それは……。
確かに納得してくれた筈ですが。」
首を傾げつつ、竹田に目を向ける。
(六)
「社長、専務が悪いんじゃないです。
一度は母も納得したんです。
ところが翌日に霊能師がやってきまして、また説得されたみたいなんです。
昼間のことで、母一人だったものですから。」
「よし、こうなったら実力行使だ。
五平! 今から行って、入院させろ。
誰がなんと言おうと、入院だ。
救急車だぞ、いいな! 母親が反対しても、強行だぞ。
竹田、いいな。お前が引っ張るんだぞ、これからは。」
「うっうっうぅぅ。」
突然、小夜子の泣き声が、武蔵の耳に入った。
「な、なんだ? 小夜子を叱ったわけじゃないぞ。
泣くな、小夜子。
俺が悪かった。な、な、泣くな。」
オロオロとする武蔵を見た竹田、信じられぬ思いだ。
五平の渋い顔が、凝視していた竹田の視線を外させた。
「違うの、お姉さんがお可哀想で。
タケゾー、きっとね。面倒を見てあげてね。
うん、そうだわ。病院では、あたしがお世話するわ。
あたしの母が労咳を患ったの。
だから多少の心得はあるのよ。」
母に抱かれた記憶がない小夜子。
近付くことさえ許されなかった小夜子。
労咳と言う病が憎くて堪らない。
「そうだったな、小夜子のお母さんも結核だったな。
しかし今は、特効薬も手に入る。
しっかり養生すれば大丈夫だ。
よし、すぐに行け。専務、頼むぞ。」
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