昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十八) 五と六

2012-10-21 10:25:14 | 小説
(五)

「なんだ、何かあったか?」

「はい、姉が……。
今連絡が入りまして……。」

「姉さんがどうした? 悪化したのか? 
大学病院に移ったんだ、悪くなるわけはないだろうに。」

「いえ、それが……」

「歯切れが悪いな。
結核なんて、きちんとした薬を飲んで栄養をしっかり取れば大丈夫さ。」

「それが……」

「加、いや。おい、専務! 
ちょっと来い!」

隣に部屋を構える五平を、大声で呼びつけた。

普段は加藤専務と呼んでいるのだが、それでは小夜子の反応が気になる。

「どうしました。なんだ、竹田。どうしたんだ?」

押っ取り刀で五平が来た。

「お前、何をやってる! 竹田の姉さんの容態が悪くなったらしいぞ。
医者に鼻薬は利かせたんだろうな。」

「勿論ですよ、社長。
たんまりと弾んでありますって。」

武蔵の剣幕に、驚く五平だ。

事の次第がまるで見えず、困惑してしまった。

「実は、入院していないんです。
自宅療養しているんです。」

「何だと!」
二人が同時に怒鳴った。

「申し訳ありません、母が猛反対しまして。」

「五平! 説得できたんじゃなかったのか!」

「いや、それは……。
確かに納得してくれた筈ですが。」

首を傾げつつ、竹田に目を向ける。





(六)


「社長、専務が悪いんじゃないです。
一度は母も納得したんです。

ところが翌日に霊能師がやってきまして、また説得されたみたいなんです。
昼間のことで、母一人だったものですから。」

「よし、こうなったら実力行使だ。
五平! 今から行って、入院させろ。

誰がなんと言おうと、入院だ。

救急車だぞ、いいな! 母親が反対しても、強行だぞ。
竹田、いいな。お前が引っ張るんだぞ、これからは。」

「うっうっうぅぅ。」

突然、小夜子の泣き声が、武蔵の耳に入った。

「な、なんだ? 小夜子を叱ったわけじゃないぞ。
泣くな、小夜子。
俺が悪かった。な、な、泣くな。」

オロオロとする武蔵を見た竹田、信じられぬ思いだ。

五平の渋い顔が、凝視していた竹田の視線を外させた。

「違うの、お姉さんがお可哀想で。
タケゾー、きっとね。面倒を見てあげてね。

うん、そうだわ。病院では、あたしがお世話するわ。

あたしの母が労咳を患ったの。
だから多少の心得はあるのよ。」

母に抱かれた記憶がない小夜子。
近付くことさえ許されなかった小夜子。

労咳と言う病が憎くて堪らない。

「そうだったな、小夜子のお母さんも結核だったな。
しかし今は、特効薬も手に入る。

しっかり養生すれば大丈夫だ。
よし、すぐに行け。専務、頼むぞ。」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿