(一)
「おう、昨日はご苦労だったな。それでどうだった?」
「安心してください。
無事、入院ですわ。
おふくろさんも、今回ばかりは、ですわ。」
と、合掌の真似をする五平だ。
「うん、そうか。」
満足げに頷く武蔵。
「なにせ、本性を現しましたから。」
「どういうことだ?」
「見張りが居たんでしょう。
三人連れの恐いお兄さんを引き連れての、ご登場でした。
さすがにおふくろさんも、ビックリですわ。」
「ほう、やっぱりだったか。でっ?」
「でって、そんなもの。
何という事はないです。
ギャーギャー騒いでましたが、一喝して終りですわ。
あの親分さんの名前を出す必要もなかったです。」
「なんだ、そりゃ。
素人さんか?」
「そこらの食いっぱぐれですわ。
ついニ三日前に雇われたようです。
祈祷師やら占い師やらの間で、結構有名になっていましてね。」
(二)
「どういうことだ、それは。」
「入れ替わり立ち代りの状態になっていました。
一つ二つどころか、二桁に迫る状態です。
驚きましたよ、まったく。」
「そんなにか! 食い物にされていたんだな。
もっと早くに相談すればいいものを、竹田の奴。」
眉間に皺を寄せて歯がゆがる武蔵に、五平も相槌を打つ。
「まったくです、残念です。
あたしも迂闊でした。
机の前でぼんやりとしている竹田を見はしたのですが、まさかこんなこととは…。
思いも寄りませんでした。」
「竹田の奴、大はしゃぎでした。
車の中で、喋ること喋ること。
初めてですよ、あんな竹田を見るのは。」
「そうか、そんなに喜んだか。」
「いや、違いますぜ。
勘違いなすってる。」
「勘違いって、お前。どういう意味だ。」
「小夜子奥さんですよ、奥さん。」
ニタニタとする五平に、
「小夜子がなんだ! 惚れたっていうのか、竹田が。」
途端に不機嫌になった。
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