昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十三) なんて女だ。

2014-03-30 21:07:14 | 小説
(四)

「なんて女だ。自慢をするなんて、聞いたことがない」

「まったくです、まったくです。男も男です。女の言いなりになっております」

聞こえよがしに囁きあう、男二人。
連れ合いらしき女がわき腹を突付いてる。

「やめなさいって、お父さん。
ほら、刺青じゃないの? 二の腕のところに。なんとか命って…」

汗で浮き出ている朱色の文字が、麦藁帽子とサングラスとに相まって、暴力団の風体を醸し出していた。

「ハハハ、これですか?」

サングラスを外しシャツを捲り上げて
「妻の名前です。流行っているんです、愛の証しというわけですよ。
どうです、旦那さんも。」
と、武蔵が声をかけた。

小夜子に恥をかかせたくないという思いと、屈託のない娘に警戒心を抱かせたくないと考えた武蔵だった。

「あ、そりゃどうも。お前、少しだまってろ」

明らかに父親は、警戒している。
老人もまた、武蔵から目をそらしている。

「そうよ、そうよ。素敵じゃない、愛の証しだなんて。
なにも分からないのに、そういうこと言っちゃいけないわよ」

娘はもう、小夜子と武蔵のフアンになってしまったようで、何やかやと小夜子と話し込んでいる。


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