モール内を歩きながら、牧子は楽しそうに衣服を物色した。
「ねえ、ボクちゃん欲しい物ある? プレゼントするわよ、遠慮しないでね」
牧子の後ろから連いてくる彼に、声をかけた。
「いいよ。別に、無いから」
「買って上げたいのよ。ジーパンなんか、どう?」
「いいよ、今日は」
「いいじゃないの! 可愛い従弟に、上げたいのお」
押し問答を繰り返す二人だったが、彼は頑として拒否した。しかし、牧子も折れなかった。
「お姉さんの言うことを聞きなさい。命令よ!」
「じゃあさ、今度買ってよ。ねっ、そうしょう。今日はさ、お姉さんだけにしてよ」
何故拒否し続けたのか、彼にもわからなかった。
確かに、これといって欲しい物はなかった。
が、それだけではなく、これっきりのことになるのではないかという、不安が消えないことが問題だった。
次のデートの約束を取り付ける意味でも、今日は断ったのだ。
「そお、それじや今度にしようか」
明らかに不満げな声だった。
牧子は、裏切られたような気がしていた。
どうにも、もう一歩が踏み込めないことが、不満だった。
何か、他人行儀な一面を見せる彼が、恨めしかった。
時計は五時半を回っていた。喉が乾いたという彼の言で、喫茶室に入ることにした。
出されたコーヒーに手をつけることなく、牧子は焦点の合わない目をした。
「ステキだったわねえ。前半の美しさが、後半の殺人事件をより残酷なものにしたわ」
熱いコーヒーをすすりながら、
「うん。主人公がラストに自殺してしまうシーンでさ、自分の顔を両手で隠す。わかるなあ、あの気持ち」
と、彼もまた空を見つめた。
「でも、残される奥さんが可哀相よ。そりゃ、子供を残して二人死ぬわけには、いかないかもしれないけど」
「でもさ。あの殺人が裏目に出たんだよね。
過去を暴こうとする人間を殺したいという気持ちは、分からないわけではないけど…」
「そうね。でも、女性の立場からすると、もう少し奥さんの、焦り・不安そして夫に対する恐怖心が欲しかったわ。
最後に、夫の愛に気が付くわけだけど」
映画に対する感想は、止まることがなかった。
お互い、無言のまま見終えた映画のシーンをそれぞれ思い浮かべていた。
突然、牧子が声を上げた。
「ちょっと、待ってね。すぐ戻ってくるから」
中田との連絡用にと買い求めたポケベルに連絡が入ったのだ。
牧子は席を立ち、店の奥に入り込んだ。
「ねえ、ボクちゃん欲しい物ある? プレゼントするわよ、遠慮しないでね」
牧子の後ろから連いてくる彼に、声をかけた。
「いいよ。別に、無いから」
「買って上げたいのよ。ジーパンなんか、どう?」
「いいよ、今日は」
「いいじゃないの! 可愛い従弟に、上げたいのお」
押し問答を繰り返す二人だったが、彼は頑として拒否した。しかし、牧子も折れなかった。
「お姉さんの言うことを聞きなさい。命令よ!」
「じゃあさ、今度買ってよ。ねっ、そうしょう。今日はさ、お姉さんだけにしてよ」
何故拒否し続けたのか、彼にもわからなかった。
確かに、これといって欲しい物はなかった。
が、それだけではなく、これっきりのことになるのではないかという、不安が消えないことが問題だった。
次のデートの約束を取り付ける意味でも、今日は断ったのだ。
「そお、それじや今度にしようか」
明らかに不満げな声だった。
牧子は、裏切られたような気がしていた。
どうにも、もう一歩が踏み込めないことが、不満だった。
何か、他人行儀な一面を見せる彼が、恨めしかった。
時計は五時半を回っていた。喉が乾いたという彼の言で、喫茶室に入ることにした。
出されたコーヒーに手をつけることなく、牧子は焦点の合わない目をした。
「ステキだったわねえ。前半の美しさが、後半の殺人事件をより残酷なものにしたわ」
熱いコーヒーをすすりながら、
「うん。主人公がラストに自殺してしまうシーンでさ、自分の顔を両手で隠す。わかるなあ、あの気持ち」
と、彼もまた空を見つめた。
「でも、残される奥さんが可哀相よ。そりゃ、子供を残して二人死ぬわけには、いかないかもしれないけど」
「でもさ。あの殺人が裏目に出たんだよね。
過去を暴こうとする人間を殺したいという気持ちは、分からないわけではないけど…」
「そうね。でも、女性の立場からすると、もう少し奥さんの、焦り・不安そして夫に対する恐怖心が欲しかったわ。
最後に、夫の愛に気が付くわけだけど」
映画に対する感想は、止まることがなかった。
お互い、無言のまま見終えた映画のシーンをそれぞれ思い浮かべていた。
突然、牧子が声を上げた。
「ちょっと、待ってね。すぐ戻ってくるから」
中田との連絡用にと買い求めたポケベルに連絡が入ったのだ。
牧子は席を立ち、店の奥に入り込んだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます