車窓から見える町並みが、次第に都会色に染まり始めた。
“あゝ、帰ってきたんだ”
そんな感慨を覚えた彼は、
「もう、田舎では暮らせないかも」と、ポツリと呟いた。
わずか三日間の帰省ではあったが、寮に戻った彼はどっと疲れを感じた。
喧噪の中に身を置いた時、彼は都会暮らしがすっかり身に付いた事を感じた。
故郷での時間の流れは、ゆったりとしたものではあった。
疲れを癒すには、確かに有り難いものであった。
しかし違和感を感じていたということを、今知った。
落ち着かなかったのである。
茂作から脱け出したいが為の、わずか三日という短期間の帰省だと思えていた。
己を責めたりもした。
しかし、今日この寮に戻ってみて気が付いた。
わずか四畳半の部屋ではあるが、誰からの干渉も受けないこの部屋だ。
大の字になって寝転がってみると、妙に安心できた。
行き交う人たちの声や足音が、遠慮会釈なしに飛び込んでくる。
それらが妙に、彼の心に安心感を与えてくれた。
寮の仲間達も、一人二人と帰り始めた。
皆それぞれに、懐かしげに声をかけ合った。
さ程に会話を交わさない者でも、口々に「お帰り。どうだった、田舎は」と、尋ね合った。
それぞれの故郷の名産品を持ち合って、わいわいと話に興じた。
そして、決まって最後に口にした。
「やっぱり、”ふる里は遠きにありて思うもの”だなあ」
一週間ぶりのバイトに出かけた彼を待っていたのは、バイト仲間の愚痴だった。
彼が休んでいた間の忙しさは凄まじいもので、皆が皆時間オーバーで配達に駆けずり回り、あげくには事務方の社員までが配達に駆り出された。
課長の井上までもが配達に従事したと聞かされた折りは「ええっ、まさかっ!」と、思わず声をあげた。
そう言えば、挨拶に赴いた折りの不機嫌さは、尋常ではなかった。
「ご迷惑をおかけしました」
と、頭を下げる彼に対し
「あゝ、ご苦労さん」
と、ぶっきら棒に答える井上だった。
話を続けようとする彼に対し、
「うん、後でな」
と、クルリと背を向けた。
貴子を見ると、これ又忙しそうに伝票を繰っていた。
とてものことに、話しかける雰囲気ではなかった。
気まずさだけが残った、バイト復帰の挨拶だった。
配達先の伝票を受け取る際に、そっと走り書きしたメモを貴子に渡した。
“おみやげがあります。帰りを一緒にしませんか? 角の喫茶店で待ちます”
“あゝ、帰ってきたんだ”
そんな感慨を覚えた彼は、
「もう、田舎では暮らせないかも」と、ポツリと呟いた。
わずか三日間の帰省ではあったが、寮に戻った彼はどっと疲れを感じた。
喧噪の中に身を置いた時、彼は都会暮らしがすっかり身に付いた事を感じた。
故郷での時間の流れは、ゆったりとしたものではあった。
疲れを癒すには、確かに有り難いものであった。
しかし違和感を感じていたということを、今知った。
落ち着かなかったのである。
茂作から脱け出したいが為の、わずか三日という短期間の帰省だと思えていた。
己を責めたりもした。
しかし、今日この寮に戻ってみて気が付いた。
わずか四畳半の部屋ではあるが、誰からの干渉も受けないこの部屋だ。
大の字になって寝転がってみると、妙に安心できた。
行き交う人たちの声や足音が、遠慮会釈なしに飛び込んでくる。
それらが妙に、彼の心に安心感を与えてくれた。
寮の仲間達も、一人二人と帰り始めた。
皆それぞれに、懐かしげに声をかけ合った。
さ程に会話を交わさない者でも、口々に「お帰り。どうだった、田舎は」と、尋ね合った。
それぞれの故郷の名産品を持ち合って、わいわいと話に興じた。
そして、決まって最後に口にした。
「やっぱり、”ふる里は遠きにありて思うもの”だなあ」
一週間ぶりのバイトに出かけた彼を待っていたのは、バイト仲間の愚痴だった。
彼が休んでいた間の忙しさは凄まじいもので、皆が皆時間オーバーで配達に駆けずり回り、あげくには事務方の社員までが配達に駆り出された。
課長の井上までもが配達に従事したと聞かされた折りは「ええっ、まさかっ!」と、思わず声をあげた。
そう言えば、挨拶に赴いた折りの不機嫌さは、尋常ではなかった。
「ご迷惑をおかけしました」
と、頭を下げる彼に対し
「あゝ、ご苦労さん」
と、ぶっきら棒に答える井上だった。
話を続けようとする彼に対し、
「うん、後でな」
と、クルリと背を向けた。
貴子を見ると、これ又忙しそうに伝票を繰っていた。
とてものことに、話しかける雰囲気ではなかった。
気まずさだけが残った、バイト復帰の挨拶だった。
配達先の伝票を受け取る際に、そっと走り書きしたメモを貴子に渡した。
“おみやげがあります。帰りを一緒にしませんか? 角の喫茶店で待ちます”
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