(八)
料亭と言う言葉に、薫と呼ばれた女給のこめかみがぴくりと動いた。
「お兄さん、何を怒ってるの?
この薫さんにおっしゃいな。
たちどころに解決うぅ!よ。」
「場所だよ。
何が悲しくて、こんな所で飲まなくちゃいかんのだ。
我々は、日本国家を支える官僚だ。
さらには、この方は、未来の事務次官さまだ。
官僚の頂点に立たれるお方だぞ。」
「そうだ!
そのお方が、いつもの料亭をやめて、庶民の娯楽場なるキャバレーに来られたのだ。
それをだ、このような便所……」
「けしからん!
いくら課長の店といえども、けしからん!」
と、山田を制して坂井が吠えた。
そして次には上本が、小山が、津田が吼えた。
「薫ちゃん、何とかならないだろうか?
この佐伯君はあたしなんかとは違い、由緒正しき方なんだ。
店にとって、決して損にはならないお方だ。
何せ、毎夜の如くに接待攻勢を受けているんだから。」
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