昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十七)の三と四

2011-09-30 22:27:00 | 小説


「大丈夫かい?」と、耳元で優しく囁ける筈だった。
“いいか!女なんてのは、耳元で甘く囁かれると、グッ!とくるものだぜ。”
“そうそう。混んでるんだから、体に触れたって不自然じゃないんだ。”
友人たちの折角のアドバイスも、全くの無駄になってしまった。
然も、気まずい空気が流れている。
意気消沈してしまった正三は、もう映画どころではなかった。
小夜子の横顔を盗み見すると、食い入るようにスクリーンを見つめている。
話し掛けることはできない。
隣の男は、腕組みをしている。明らかに不機嫌だ。



小夜子のたっての希望で、再度見ることになった。
どうしても一度では、物足りないと言う。
正三には、願ってもないことだ。
今外に出ても、未だ陽が高い。
それに、殆ど映画を見ていなかった。
あれこれと思い悩む中では、右から左にすり抜けていた。
これでは、小夜子の気分を害するに決まっている。
小夜子のことだ、色々と検証するに決まっている。
その折に、生返事を繰り返すわけにはいかない。
それにしても、難解な内容だった。
ストーリーとしては単純なのだが、登場人物それぞれが異なる証言をしている。
罪から逃れようとするのではなく、自らの凶行だと言い張っている。
いつの間にか、正三も食い入るように見入った。


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