(三)
奥の部屋から、隠れるように見ていた徳子。
“アハハハ、話になんないわ。”
メラメラと燃えていた嫉妬の炎も、一気に消えた。
“ほんと、専務の言う通りだわ。
まだ、ねんねじゃないの。”
敵愾心を抱いていた自分が、馬鹿らしくなった。
“社長は、お人形さまが欲しかったんだ。”
「皆さん。お花、ありがとうございます。小夜子です。
よろしくお願いします。」
深々と頭を下げる小夜子に、一斉に大きな拍手が沸いた。
「みんな、よろしく頼むぞ。」
階段を上がるとき、ふわふわとした感覚に襲われる小夜子。
ともすれば階段を踏み外しそうになる。
地についていない自分に気付き、武蔵にしがみついて上がった。
高揚した己を、叱咤する小夜子。
“あたしらしくもない、しっかりしなさい小夜子!”
しかし緩んだ頬は、小夜子の意思を無視している。
武蔵と小夜子が二階の社長室に消えた後、そこかしこで小夜子談義が始まった。
「あたし、安心した。
何かこう、姉さん姉さんした女性を奥さまにされて、
威張り散らされるって思ってたけど。」
「そうそう。あの、熱海の旅館の女将みたいな女性をね。」
「小夜子さんでよかったわ。」
「そうよ! 断然、小夜子さんよ。」
「でもさ。奥さまって言うより、あたしたちの妹って感じよね。」
(四)
「たしかあのキャバレーで、煙草売ってたんじゃないか? 」
「そう! 加藤専務の見立てらしい。
一目で、社長の奥さんにって思ったらしい。」
「なんでも、英会話を勉強中らしい。
ということは、会社に顔を出してもらえるんだ。」
“なに、この部屋は。何もないなんて、タケゾーらしいわ。”
と、安堵した小夜子。
社員から社長社長と声を掛けられて、当たり前のように応ずる武蔵。
至極当然のことなのだが、小夜子には眩しく感じられていた。
「タケゾー、殺風景過ぎるよ。」
「そうか、やっぱり。絵画でも飾るかな?」
「社長!」
息せき切って、竹田が入ってきた。
「どうした? そうだ、小夜子。
偶然なんだが、この男の苗字も竹田と言うんだ。」
ぺこりと頭を下げる竹田。
「ふぅん……」
と、値踏みをするが如くに一瞥する小夜子。
“頼りなさそうな人ね。”と、これが第一印象だった。
「申し訳ありませんが、早退させて下さい。」
力ない声で武蔵に告げた。
一日たりとて休みを取らない竹田が、切羽詰った声で言う。
奥の部屋から、隠れるように見ていた徳子。
“アハハハ、話になんないわ。”
メラメラと燃えていた嫉妬の炎も、一気に消えた。
“ほんと、専務の言う通りだわ。
まだ、ねんねじゃないの。”
敵愾心を抱いていた自分が、馬鹿らしくなった。
“社長は、お人形さまが欲しかったんだ。”
「皆さん。お花、ありがとうございます。小夜子です。
よろしくお願いします。」
深々と頭を下げる小夜子に、一斉に大きな拍手が沸いた。
「みんな、よろしく頼むぞ。」
階段を上がるとき、ふわふわとした感覚に襲われる小夜子。
ともすれば階段を踏み外しそうになる。
地についていない自分に気付き、武蔵にしがみついて上がった。
高揚した己を、叱咤する小夜子。
“あたしらしくもない、しっかりしなさい小夜子!”
しかし緩んだ頬は、小夜子の意思を無視している。
武蔵と小夜子が二階の社長室に消えた後、そこかしこで小夜子談義が始まった。
「あたし、安心した。
何かこう、姉さん姉さんした女性を奥さまにされて、
威張り散らされるって思ってたけど。」
「そうそう。あの、熱海の旅館の女将みたいな女性をね。」
「小夜子さんでよかったわ。」
「そうよ! 断然、小夜子さんよ。」
「でもさ。奥さまって言うより、あたしたちの妹って感じよね。」
(四)
「たしかあのキャバレーで、煙草売ってたんじゃないか? 」
「そう! 加藤専務の見立てらしい。
一目で、社長の奥さんにって思ったらしい。」
「なんでも、英会話を勉強中らしい。
ということは、会社に顔を出してもらえるんだ。」
“なに、この部屋は。何もないなんて、タケゾーらしいわ。”
と、安堵した小夜子。
社員から社長社長と声を掛けられて、当たり前のように応ずる武蔵。
至極当然のことなのだが、小夜子には眩しく感じられていた。
「タケゾー、殺風景過ぎるよ。」
「そうか、やっぱり。絵画でも飾るかな?」
「社長!」
息せき切って、竹田が入ってきた。
「どうした? そうだ、小夜子。
偶然なんだが、この男の苗字も竹田と言うんだ。」
ぺこりと頭を下げる竹田。
「ふぅん……」
と、値踏みをするが如くに一瞥する小夜子。
“頼りなさそうな人ね。”と、これが第一印象だった。
「申し訳ありませんが、早退させて下さい。」
力ない声で武蔵に告げた。
一日たりとて休みを取らない竹田が、切羽詰った声で言う。
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