昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十八) 三と四

2012-10-20 17:44:47 | 小説
(三)

奥の部屋から、隠れるように見ていた徳子。

“アハハハ、話になんないわ。”

メラメラと燃えていた嫉妬の炎も、一気に消えた。

“ほんと、専務の言う通りだわ。
まだ、ねんねじゃないの。”

敵愾心を抱いていた自分が、馬鹿らしくなった。

“社長は、お人形さまが欲しかったんだ。”

「皆さん。お花、ありがとうございます。小夜子です。
よろしくお願いします。」

深々と頭を下げる小夜子に、一斉に大きな拍手が沸いた。
「みんな、よろしく頼むぞ。」

階段を上がるとき、ふわふわとした感覚に襲われる小夜子。
ともすれば階段を踏み外しそうになる。

地についていない自分に気付き、武蔵にしがみついて上がった。

高揚した己を、叱咤する小夜子。

“あたしらしくもない、しっかりしなさい小夜子!”

しかし緩んだ頬は、小夜子の意思を無視している。

武蔵と小夜子が二階の社長室に消えた後、そこかしこで小夜子談義が始まった。

「あたし、安心した。
何かこう、姉さん姉さんした女性を奥さまにされて、
威張り散らされるって思ってたけど。」

「そうそう。あの、熱海の旅館の女将みたいな女性をね。」

「小夜子さんでよかったわ。」
「そうよ! 断然、小夜子さんよ。」

「でもさ。奥さまって言うより、あたしたちの妹って感じよね。」




(四)

「たしかあのキャバレーで、煙草売ってたんじゃないか? 」

「そう! 加藤専務の見立てらしい。
一目で、社長の奥さんにって思ったらしい。」

「なんでも、英会話を勉強中らしい。
ということは、会社に顔を出してもらえるんだ。」


“なに、この部屋は。何もないなんて、タケゾーらしいわ。”
と、安堵した小夜子。

社員から社長社長と声を掛けられて、当たり前のように応ずる武蔵。
至極当然のことなのだが、小夜子には眩しく感じられていた。

「タケゾー、殺風景過ぎるよ。」
「そうか、やっぱり。絵画でも飾るかな?」

「社長!」
息せき切って、竹田が入ってきた。

「どうした? そうだ、小夜子。
偶然なんだが、この男の苗字も竹田と言うんだ。」

ぺこりと頭を下げる竹田。

「ふぅん……」
と、値踏みをするが如くに一瞥する小夜子。

“頼りなさそうな人ね。”と、これが第一印象だった。

「申し訳ありませんが、早退させて下さい。」

力ない声で武蔵に告げた。
一日たりとて休みを取らない竹田が、切羽詰った声で言う。



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