昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[ライフ!]ボク、みつけたよ! (一)齢七十となり

2024-09-05 08:00:05 | 物語り

 齢七十となり、チラホラと訃報がとどきます。
若すぎた死をいたむ声もあれば、大往生でしたねと慰める声があります。
そんな中、わたしもそろそろ終活を意識せねばと思いはじめたのです。
といっても独りぐらしのわたしですし、特段これといって遺したい物もありません。
もっともわたしの遺物などを欲しがる人がいるはずもありませんが。

 そうだ、これは欲しがる人がいるかもしれません。
4Kテレビなんですがね、家電量販店で買いもとめました。
そのおりの笑うにわらえないエピソードを聞いてもらいましょうか。
わたしという人間のいっ端がわかっていただけるかもしれませんし。

 そもそもはパソコンの購入で出かけたのですが、いつの間にかテレビの話になってしまいました。
わたし絵画を観るのが好きでしてね、ちょくちょく美術展に出かけます。
そんな話を販売員としていましたら、テレビの画面が水族館から、とつじょルーブル美術館に変わったんです。
モナリザが出てきましてね、驚きました。
なるほど違いますわ、たしかに。
絵の具のひび割れ具合までくっきりと現れています。

思わず額をくっつけてしまいました。
苦笑いする販売員に気づいて画面から離れましたけど。
「結構いらっしゃるんですよ、画面に顔を付ける方が」なんて声が聞こえました。
わたしを慮ってのことではなく、事実のようですね。

 けれどもそのまま真うしろに離れたのではなく、意地悪心がムクムクと湧いてきまして、斜め横から見てみました。
おもわず唸ってしまいました。
販売員の言を借りれば、「そのまんま」でした。
どういう意味かというと、歪みゼロ、輝度不変、あといくつか特徴を話してくれましたが、耳に入りませんでした。

 最後に、音質の説明です。左右はもちろんのこと、上下からも音が聞こえるそうで。
つまり、音に包まれる感覚になるとか。
大げさに言えばですが、と前置きされての話は(こいつ、できるな)と思わされました。

「宇宙空間です」。「ソファに座られて目を閉じて頂くと、身体が宙に浮いた感覚を味わえます」。
「音が上下左右からまとわりついてくる感じです」。
「本店に行ってもらえれば視聴ルームを用意してまして、そこでならば体感して頂けるのですが。
東京ですから……」と申し訳なさそうな顔を見せるのです。

 本音を言えば8Kが欲しかったのですが、価格がねえ。
とてもじゃないですが手がでません。それより何より大きすぎます。
六畳の部屋に六十インチの大画面はダメです。
で、やむなく4Kの四十三インチにしました。
価格ですか? 奮発しました、これは。
六桁ですからね。清水のぶたいから飛び降りるなんて、もう古いですかね。
分不相応だとはわかっています。わかってはいますが、どうしても欲しかったのです。
脳に大量のアドレナリンが分泌されてきました。
そしてその気になったところで、地獄に落とされました。



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