昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

昭和の恋の物語り (八)

2012-12-09 13:21:17 | 小説
(八)

益田商店に着いた。

配達物を持って、ゆっくりと大股に入って行く。
狭い店の中で、皆忙しそうに働いている。

「毎度!」
 声で怒鳴るように叫んだ。
「あぁ、ご苦労さん。」
部長が仏頂面で答える。

俺は、いつものように二階へ運ぶ。
そしてその二階には、俺に気があるらしい女性がいる。
少し胸をときめかせながら上った。 

そして又、言う。
「毎度!」

二度も同じ言葉を発して何をくだらぬことをと思いつつも、いつもそうしている。
要するに、「毎度」以外の気の利いた言葉が出てこないのだ。

主任からは、お世辞の一つも言ってこいと言われてはいるが、どうにも言葉が出ない。

まだ十八歳の若造が、二まわりも年上のおっさんに対して
「昨夜の戦果は如何でした? ゴルフは如何でしたか?」
などと言えるわけがない。

夜の戦果の意味するところすら、正確には知らない。
主任は、そう言えと言うのだけれど。


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