昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (七) 歯ブラシ、二本買っちゃった

2014-12-23 10:33:32 | 小説
“わたしったら、なにを言ったのかしら。早く帰ってきてね、なんて。
まるで新婚の奥さんみたいなことを言って。変に思わなかったかしら。
どうかしてるわ、わたし。彼は、まだ学生なのよ”
帰り道、今夜の彼とのことを思い返しては、ぽっとほほを赤らめる貴子だった。

今日の道々、貴子は不安にかられていた。朝起きてから、落ち着かない気持ちだった。
普段はしない化粧を施しながら、鏡に映った自分に問いかけた。

“武士さんに求められたら、どうしよう。違う! 武士さんは、そんな男性じゃないわ”
と、否定しつつも、“彼ならば大丈夫かも?”と、思いもした。

電車が彼のアパートに近づくにつれ、“このまま帰ろうか”と思い始めた。
しかし、貴子の手の中には少しの日用品を入れた袋がある。
歯ブラシ・歯磨き粉・そして台所洗剤等々、近くのドラッグストアで買い求めた物だった。

“歯ブラシ、二本買っちゃった。どう思うだろう”
食器類は、二個セットで買い求めはした。
食事を共にする為であり、自然なことだ。
しかし、歯ブラシは一本で済むものだ。

しかも、青とピンク色で、明らかに女性用だった。
“うん、そうよ、お母さま用よ。きっと、彼を訪ねていらっしゃるわ”
貴子は自分に言い聞かせながら、レジで支払いを済ませたのだ。


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