長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第一部～ （七） これからさ、あなたのアパートに連れてってよ。

「ねえねえ。これからさ、あなたのアパートに連れてってよ。
次のお休みの日に、お邪魔したいから。
日用品は、明日デパートで揃えてあげるから。
私に任せてくれるでしょ？　うんと、可愛らしい柄を揃えてあげる」

突然の貴子の言葉に、彼は驚きを隠せなかった。
「取りあえず、場所を知っておかなくちゃね」
彼の驚きように対して、貴子は慌てて言葉を付け足した。
夜の九時になろうかという時間に、男のアパートに行く等と口にした自分に、貴子自身が驚いた。

“なんだか、変な風にとられなかったかしら。
うぅん、わたし自身が考えたのかしら。
違う、そんなことを考えたのじゃないわ。
そんな計算高い女じゃないわよ、わたしは”

「いいよ。駅からすぐなんだ、アパートは。
だけどビックリしないでね、凄く古いんだ。そのお陰で安いんだけどね。
そうだ！　合い鍵を渡しておくよ。僕が居なくても入れるでしょ、そうすれば」
彼は貴子の返事も聞かずに、ポケットから鍵束を取りだした。

彼のアパートは駅のすぐ傍というよりは、線路沿いに建っていた。
幸い駅に近いこともあって、速度がさ程に出ていないことが救いだった。
唯、一階であることから、カーテンを開けることが出来なかった。
車窓から丸見えになってしまうのだ。
夏の暑さ対策が、悩みの種だった。
バイトを頑張ってエアコンを購入したいんだと、真顔で話した。

貴子は「時間も遅いから」と、部屋を確認後に彼と別れた。
彼も又無理強いをすることは止めた。
「それじゃあ、明後日に」
「うん。早く帰ってきてね」