2日(土)。昨夕、初台の新国立劇場でワーグナーの「ローエングリン」を観ました キャストは、ハインリヒ国王にギュンター・グロイスべック、ローエングリンにクラウス・フロリアン・フォークト、エルザ・フォン・ブラバントにリカルダ・メルベート、フリードリヒ・フォン・テルラムントにゲルト・グロホフスキー、オルトルートにスサネ・レースマークほか、ペーター・シュナイダ―指揮東京フィルです。演出は新国立劇場で「さまよえるオランダ人」を手掛けたマティアス・フォン・シュテークマンです 物語は・・・・
10世紀のアントワープ.プラバント公女エルザは,テルラムント伯から弟殺害の罪で訴えられます 窮地に陥ったエルザを救ったのは彼女が夢に見た白鳥の騎士です.騎士は決闘でテルラムントを倒し,エルザを救います 2人は結婚することになりますが,騎士の出した条件は自分の名前と素性を尋ねないことでした.テルラムントの妻オルトルートはエルザに疑念の心を植え付け,婚礼の夜,エルザは禁じられた問いを発してしまいます 騎士は聖杯王パルジファルの息子ローエングリンと名乗り,エルザの元を去っていきます
全3幕からなりますが,第1幕=約1時間,休憩40分,第2幕=約1時間半,休憩40分,第3幕=約1時間という長丁場です.私はこの「ローエングリン」は序曲と第3幕への前奏曲ぐらいしか聴いたことがなく,全曲を通して聴くのは今回が初めてです
ペーター・シュナイダーの指揮で序曲が始まります ゆったりとした静かな音楽が流れ,いつの間にか大きなクライマックスを描き,再び静かな音楽に戻ります.永遠に続くとも思われるワーグナーの序曲には魔力があります.いつしか彼の世界に引きづり込まれている自分を発見します
第1幕が始まってしばらくして,騎士がエルザに「私の名も素性も尋ねてはならない」と言う少し前のところで,いきなり天上からゴーッという音が聴こえ,床と椅子が振動し始めました 明らかに地震です.舞台上のエルザ役のメルベートは見るからに動揺しています 会場のあちこちでもざわめき始めました.しばらくして揺れが収まったので,歌手陣も平静さを取り戻して歌い始めました 最近はどこのコンサートでも開演に当たって「このホールは安全である.地震が起こったときは,あわてず係員の指示に従って行動してほしい」旨アナウンスしているので,実際に地震が起きても大騒ぎになることはありません.長いこと新国立劇場でオペラを観てきましたが地震に遭遇したのは今回が初めてです
舞台上の背景には,舞台美術家ロザリエによるモザイク状のスクリーンが配置されていて,時に空が,時に花火が,時に流れる雲が,刻々と映し出されます.舞台はシンプルで美しいです 音楽と美術の調和,これぞワーグナーの求めていた総合芸術です 演出の中で一番驚いたのは,第2幕冒頭でエルザが登場するシーンです.舞台右そでの中空から一本の太い光の棒が舞台中央に向かって伸びてきます.するとその光の上にエルザが立っているのです エルザはそこで歌います.これは今回のいくつかの演出の中でも最も光っていました
歌手では何と言ってもローエングリンを歌ったファオークトが抜群の歌唱力で,圧倒されました 伸びのあるテノールで,声が合唱に埋もれません
それから,エルザを歌ったソプラノのメルベート.この人は新国立のモーツアルト「コジ・ファン・トゥッテ」でフィオルディリージを歌った歌手ですが,モーツアルトよりもワーグナーの方がいいような気がします
ハインリヒ国王を歌ったグロイスベックは深みのあるバスで存在感がありました バリトンのグロホフスキーは妻オルトルートにそそのかされながら権力にしがみつこうとするテルラムントを好演しました
エルザを陥れるオルトルートを歌ったメッゾソプラノのレースマークは悪役を見事に歌い上げました
日本人で健闘していたのは王の伝令を歌った萩原潤です.新国立オペラではいくつかの公演でバリトンを歌っていますが,今回は絶好調だったのではないでしょうか
「ローエングリン」では合唱が大きな役割を果たしますが,今回も新国立劇場合唱団は世界に通用する圧倒的な歌唱力で舞台を盛り上げました
最後に特筆すべきは,ペーター・シュナイダー指揮東京フィルでしょう.地の底から湧きあがってくるようなワーグナーの分厚い管弦楽を思う存分聴かせてくれました
ワーグナーのオペラは長時間にわたるので,途中で集中力が途切れてあくびが出ることがあるのですが,今回の演出は最初から最後まで密度の濃い美しい公演でした カーテンコールでは主役級の歌手陣とともに演出のシュテークマン,美術・光メディア・衣裳担当のロザリエ,照明のペツォルトが盛んなブラボーと拍手を受けていました
ワーグナーの歌劇や楽劇を聴くときに思うのですが,一旦幕が開くとその楽章は音が途切れることなく続くので,1分でも遅刻した人は会場内に入れないのです したがって,今回の「ローエングリン」であれば,へたをすれば1時間近く待たされることになります 私はワーグナーで何回か経験済みです.こういう時は”金返せ”と言いたくなりますが,言いません.時間内に会場に入っている身になってみれば,演奏途中の座席探しなど非常識の極みだからです
随分手の込んだ演出だなあ、、と思うかも。
実は、1ヶ月ほど前、リヒャルトシュトラウスのエレクトラで5分遅刻してしまったのです。オペラ同様入場できません。
「休憩まで待とう」とたかをくくっていたらなんと休みなし!親切な案内係りが「あそこにステージマネージャーがいるから交渉してみたら、、」といってくれましたが、結果は、
「ロビーのモニターで見るしかない」
楽劇、会場で見ないと見るのでは大違い。
既に駐車場代金を前払いしていたので、しばらくモニター鑑賞をしていたのですが、ついにあきらめて帰宅。
もう、2度とこんなことはしないように、、と誓ったのでした。
(メールは無事に届きましたか)