11日(月).昨夕のNHK・Eテレの「ららら♪ クラシック」を途中から観たら,ドイツの指揮者・ギュンター・ヴァントがN響を振ってベートーヴェンの第5交響曲を演奏するシーンが映し出されていました ヴァント+N響と言えば忘れられない演奏があります
もう20年以上前のことです.N響定期演奏会でヴァントの指揮でモーツアルトの「ポストホルン」セレナーデを演奏したのですが,しっかりした音楽作りの中にもモーツアルトらしい愉悦感が溢れていて,しばらく口をきけないほど感動したことを覚えています 猫背のおじいさんの指揮から何と素晴らしい音楽が流れてくることか・・・・・・それ以来ヴァントのファンになりました
閑話休題
一昨日の土曜日,午後3時からの東京フィル文京シビックシリーズ・コンサートに続いて,午後6時からサントリーホールで東京交響楽団の第601回定期演奏会を聴きました 指揮はゾルタン・コティシュで,演奏曲目は①R・シュトラウス「マクベス」,②モーツアルト「ピアノ協奏曲第17番ト長調K.453」(ピアノと指揮:コチシュ),③バルトーク「管弦楽のための協奏曲」の3曲です
オーケストラは通常の東響とは違いヴィオラとチェロが入れ替わり,向かって左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,その後ろにコントラバスという編成をとります.これは指揮者コチシュの指示によるものです
最初のリヒャルト・シュトラウスの「交響詩:マクベス」は,彼の7作ある交響詩のうち最初に着手された作品です.シェイクスピアの書いた悲劇的な戯曲を,R.シュトラウスは色彩感豊かな壮大な曲に仕上げました
高木和弘コンサートマスターの元,フル・オーケストラがスタンバイして,指揮者コチシュの登場です.描いていたイメージとはまったくかけ離れていてびっくりです.痩せて精悍な顔つきのスリムな男性をイメージしていたのですが,目の前に現われたのは,白髪で赤ら顔の長身の中高年太りの男性でした
何でもかんでも音楽にしてしまうのがR・シュトラウスの特徴ですが,コチチュの指揮する「マクベス」の音楽を聴く限り,絵画的な,あるいは映画音楽のような曲想です.R・シュトラウスの意気込みを感じます
次のモーツアルト「ピアノ協奏曲第17番K.453」の演奏のために舞台左サイドに控えていたピアノがセンターに移動します.コチシュがピアノを弾きながら指揮をするため,ピアノが縦にセッティングされます.つまり指揮者は聴衆に背中を見せて座ることになります.オーケストラは,規模を縮小し弦楽器,管楽器合わせて27人編成となります
このK.453はウィーン時代,モーツアルトが教えていたピアノの生徒バルバラ・フォン・プロイヤーのために書かれました.彼女の父親はザルツブルク宮廷のウィーン駐在員で,自らオーケストラを雇うほど音楽好きだったようです
コチシュの合図で第1楽章「アレグロ」が快調なテンポで始まります.コチシュのカデンツァは聴きものでした 第2楽章は,最初のうちはピアノの出番がないので,コチシュは立って指揮をし,ピアノの出番になると座って演奏します.第3楽章「アレグレット」はまるで魔笛のパパゲーノが出てきて歌い出しそうな楽しい曲想ですが,コチシュはそんなモーツアルトを楽しんで演奏しているようでした
曲が終わると会場一杯の拍手とブラボーが寄せられました.コチチュはオーケストラを立たせようと合図しましたが,コンマスの高木が立たず指揮者兼ピアニストに拍手を送るので楽員も従います.コチシュは何度もお辞儀をして,やっと高木を立たせ,オケの面々も立って賞賛の嵐に応えました
休憩後のバルトーク「管弦楽のための協奏曲」は,バルトークがアメリカに亡命したあと,指揮者クーセヴィツキーが,自身の生誕70年と,ボストン交響楽団の指揮者就任20周年を祝うために作曲を依頼したことから書かれました
私はバルトークの作品の中ではこの曲が最も好きで,ジョージ・セルによるCDでよく聴きました コチシュは他の2曲と同様,暗譜で指揮をします.第1楽章「序章」,第2楽章「対の遊び」,第3楽章「悲歌」,第4楽章「中断された間奏曲」,第5楽章「終曲」からなりますが,コチシュは緩急自在,色彩感豊かにバルトークの世界を表出させていました.第5楽章のフィナーレの高揚感は何度聴いても興奮します
拍手とブラボーが鳴りやまなかったのは当然です.何回も舞台に呼び戻されたコチシュはコンマスの高木に「これで解散」と伝えたようですが,聴衆が帰ろうとしないので,オーケストラは立ったまま指揮者を待ちました.コチシュは満面の笑みで応えていました
というわけで,私の頭の中で「白髪で赤ら顔の中高年太り」というイメージは打ち消され,「シルバーグレイのナイス・ガイ」というイメージが打ち立てられました
ところで,最後の最後に残念なことがありました.終演後,拍手が続いている時のことです.私の席の3列前のセンター席に座っていた若い女性がケータイ・カメラで舞台を撮影していたのです すぐにホール係りの女性が飛んできて注意を促しましたが,彼女が引き上げるとまた撮影を始めたのです また,係りの女性が飛んできて注意をして,やっと諦めました
私の推測はこうです・・・・あの席は多分招待席で,招待された人が急に来られなくなって,家族か知人に譲った.普段コンサートに行ったことがない彼女は物珍しさに思わずケータイを取り出して撮影した.あとで友達に”ねえねえ,わたしさあ,サントリーホールに行ったんだよ.ほら,オーケストラ映っているでしょ”と自慢する・・・・さしずめこんなところでしょう
「会場内ではケータイの電源は切ること,写真撮影は認められないこと」はどのホールでも事前にアナウンスしています こういうのは人に迷惑がかかるとかいう以前の問題です.マナーが守れない常識外れの人にはコンサート会場に来てほしくないと思います さらに会場のサントリーホールには,もっと厳しく対処してほしいと思います.撮影したホール内の映像は消去させるなど,2度と同じ過ちを犯さないように思い知らせるべきです
プログラム6月号の表紙はクリムトの「婦人の肖像」
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