20日(日)。昨日の朝日朝刊にドイツの名バリトン歌手,ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウの死亡記事が載りました
「18日,ドイツ南部ミュンヘン近郊の自宅で死去,86歳だったが,死因は明らかでない.シューベルトの”冬の旅”などドイツ歌曲の分野では完成度の高さと解釈の深さで並ぶ者がないとされた.63年に初来日.カール・べーム率いるベルリン・ドイツ・オペラ”フィガロの結婚”では,伯爵を風格たっぷりに演じた」
その「フィガロの結婚」はCD化されています(下の写真).1963年10月23日,日生劇場のこけら落とし記念公演のライブ録音です
閑話休題
昨日、すみだトリフォニーホールで新日本フィル・トリフォニーシリーズ第494回定期演奏会を聴きました錦糸町駅からアルカキットを抜けてトリフォニーホールに行く途中,いつものように東京スカイツリーが迎えてくれました
この日のプログラムは①ドヴォルジャーク「交響詩 金の紡ぎ車」、②マーラー「嘆きの歌」(初稿版)の2曲。②の独奏は、ソプラノ=天羽明恵、アルト=アネリ―・ペーボ、テノール=望月哲也、バリトン=イシュトヴァン・コヴァ―チ、ボーイ・ソプラノ,ボーイ・アルトは東京少年少女合唱隊、合唱は栗友会合唱団、指揮はクリスチャン・アルミンクです
この定期公演は開演30分前から指揮者による「プレ・トーク」があります.この日はアルミンクがマーラーの「嘆きの歌」を中心に,通訳を介して曲目を解説しました 終わりに「この公演は昨日と今日の2日間,同じプログラムを演奏しますが,実は昨日がマーラーの101回目の命日でした.我々は何年も前からマーラーの命日にマーラーの曲を演奏するよう周到に公演プログラムを組んできました・・・・・・ということではなく,単なる偶然にすぎません」と言って会場の笑いを誘っていました 新日本フィルは定期公演でも室内楽シリーズでも「プレ・トーク」があるので,作曲家や作品の理解が進みます.とくに室内楽シリーズの篠原英和さんのトークは天才的な話術です.ファンが多いのも頷けます
第1曲目のドヴォルジャーク「交響詩:金の紡ぎ車」のストーリーは,「若き王が織り機を紡ぐ娘ドル二チカに求婚すると,継母と義姉が彼女の手足を切断して殺し,義姉が身代わりに嫁ぐようにする 遺体を見つけた仙人は,王妃となった義姉のもとにある目と手足を,金の紡ぎ車と糸巻棒に引き換えさせ,魔法で妹を生き返らせる 王妃が糸を紡ぐと紡ぎ車が歌って悪事を暴く.王はドル二チカを探して結婚し,罪人たちは森の狼に引き裂かれる」という内容です.
恐ろしい物語ですが,ドヴォルジャークのつけた音楽はメロディーに溢れ,”分かりやすい”音楽です フル・オーケストラによる演奏は生き生きと”物語”を描いていました
休憩後のマーラー「嘆きの歌」は原語では Das klagende Lied ですが,プログラムの解説によると klagen はもともと擬声語で「嘆く」「悲しむ」「嘆息する」の意ですが,「不平や苦情を訴える」,法律用語では「告訴する」という強い性格を帯びるとのことです
この曲はマーラーが18歳から20歳にかけて作曲した若き日の傑作です マーラーは「嘆きの歌」をブラームスらが審査をしたベートーヴェン賞に応募しますが,落選します 皮肉にもこの曲によって「不平を訴える」ことになりました
マーラーは,マルティン・グライフの詩劇「嘆きの歌」,ルートヴィヒ・ベヒシュタインの「新ドイツ童話集」所収の原作に加えて,グリム童話「歌う骨」も参照したようです
物語は第1部「森のメルヒェン」,第2部「吟遊詩人」,第3部「婚礼の出来事」の3部からなります 第1部では,気高い女王が,森の赤い花を探した者の妻になるという.その花を見つけて眠った弟を邪悪な兄が殺す 第2部では,森をさまよう辻音楽師が輝く1本の骨を拾い,笛にして吹くと,殺された悲しみを歌うので,女王のもとへと向かう.第3部では,王へ迎えられる兄が城の広間で楽師の運んだ笛を口に当てると,笛が弟の悲痛を歌い出し,女王は倒れ,城は崩れ去る・・・・というものです
フル・オーケストラの背後には男女混合コーラスが130名ほどスタンバイします ソプラノの天羽明惠が白(あるいはシルバー)のドレスで,メゾ・ソプラノのアネリー・ぺーボが赤のドレスで,テノールの望月哲也,バスのコヴァーチ,指揮者アルミンクとともに登場します コンマスは崔文殊です.
アルミンクのタクトが振り下ろされて「嘆きの歌」第1部からオーケストラによって物語が奏でられます 時に後の円熟期のマーラーらしいメロディーが現れます.第2部に入ると,舞台の裏で演奏するブラスバンド(バンダ)の音が遠くから聴こえてきます 舞台後方のパイプオルガン下の左サイドの手すり部分を見ると,目立たないように小型カメラが指揮者を狙っているのが分かります 舞台裏では副指揮者がモニター画面上のアルミンクの指揮を観ながら19人のブラス+シンバル奏者を指揮をして演奏に効果を与えています
途中,パイプオルガンの下の通路にボーイ・ソプラノとボーイ・アルトが出てきて,アルミンクの指示で,殺された弟の「訴え」を歌います
ソリストの4人はいずれも素晴らしく,とくにバスのコヴァーチが深い声で印象に残りました
カーテン・コールでは,ソリストがボーイ・ソプラノ,ボーイ・アルトの子供たちと手に手を取って登場し(サッカーの入場みたい)拍手喝さいを浴びていました ソリストたちとアルミンクとで手をつないで会場にお辞儀をして声援に応えていましたが,自分の左に誰もいないのがさびしかったのか,ヴィオラの中村美由紀さんの手を取って仲間に引き入れていました 中村さんは非常に恥ずかしそうでしたが,嬉しそうにも見えました
帰りがけにロビーのチケット予約コーナーに寄って,プログラムに載っていた「新・クラシックへの扉」8月公演のチケットを予約しました 萩原麻未がラヴェルのピアノ協奏曲を演奏するのです.聴かないわけにはいきません 8月10日(金),11日(土)のいずれも午後2時からですが,11日の指定を取りました.ほとんど残りの席はないようです.楽しみが一つ増えました