東京地裁判例―更新料を支払う旨の借地契約上の合意がない場合に、地主からの更新料支払請求は認められないとされた二つの事例
(事案の概要と判旨)
【事例一】東京地裁平成二〇年八月二五日判決
AはBに昭和二四年に土地を貸した(墨田区)。Aは死亡し、Cが相続。CとBは、昭和四三年に借地契約を合意更新(一回目)。この際、更新料四万円が払われた。昭和六三年に法定更新(二回目)。Bが平成五年死亡し、その子であるYが相続。地主Cが平成一八年死亡、その子Xが相続。平成二〇年二月に法定更新(三回目)。XはYに対し最後の更新につき一五〇万円(土地時価の五%)の更新料を請求して提訴した賃貸借契約書には更新料に関する定めが一切なかった。判決は、「宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人の賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するとはいえない(最高裁第二小法廷昭和五一年一〇月一日判決)」として、地主の更新料支払請求を棄却した。
【事例二】東京地裁平成二〇年八月二九日判決
DはEに昭和二一年に土地を貸した(豊島区)。DとEは昭和四一年に合意更新(一回目)。さらにDとEは昭和六一年に合意更新(二回目)。Dは昭和六二年に死亡し子の甲が相続。Eは平成一六年死亡し配偶者の乙が相続。平成一八年は法定更新(三回目)。甲は、更新料の合意または慣習を根拠に五二五万円の更新料(土地時価の七%)を請求して提訴してきた。昭和六一年の合意更新時に作成した契約書には更新料の定めは一切なかったが、更新料と推定される二二〇万円の支払がEからDになされている。判決は、「次回の更新に際して更新料の支払が要件になるか否かは、貸主であるD側にとっても、借主であるE側にとっても重要な事項であり、これが当事者間で合意されたのであれば、本件賃貸借契約書にその趣旨の条項が書き込まれてしかるべきところ、本件賃貸借契約書にはそのような条項が存在しない」として更新料支払合意の存在を否定し、慣習を根拠とした甲の請求に対しては「一定の基準に従って当然に更新料を支払う旨の慣習が存在するとまで認めることはできない」として、地主の更新料支払請求を棄却した。
(寸評)
右の【事例二】は筆者が代理した組合員の事例である。地主は控訴したが、第一回以前に取り下げ、請求棄却の一審判決が確定して解決した。借地契約書に更新料を支払う旨の条項がなく更新料支払合意が認められない場合に、借地契約が期間満了時に法定更新したときには、借地人には更新料の支払義務がなく、更新料を支払う事実たる慣習の存在は認められないというのは、【事例一】の判決も引用している昭和五一年最高裁判決により確定した解釈で、現在の下級審もこれに従っている事例として紹介する。(弁護士 田見高秀)
(東京借地借家人新聞より)
(事案の概要と判旨)
【事例一】東京地裁平成二〇年八月二五日判決
AはBに昭和二四年に土地を貸した(墨田区)。Aは死亡し、Cが相続。CとBは、昭和四三年に借地契約を合意更新(一回目)。この際、更新料四万円が払われた。昭和六三年に法定更新(二回目)。Bが平成五年死亡し、その子であるYが相続。地主Cが平成一八年死亡、その子Xが相続。平成二〇年二月に法定更新(三回目)。XはYに対し最後の更新につき一五〇万円(土地時価の五%)の更新料を請求して提訴した賃貸借契約書には更新料に関する定めが一切なかった。判決は、「宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人の賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するとはいえない(最高裁第二小法廷昭和五一年一〇月一日判決)」として、地主の更新料支払請求を棄却した。
【事例二】東京地裁平成二〇年八月二九日判決
DはEに昭和二一年に土地を貸した(豊島区)。DとEは昭和四一年に合意更新(一回目)。さらにDとEは昭和六一年に合意更新(二回目)。Dは昭和六二年に死亡し子の甲が相続。Eは平成一六年死亡し配偶者の乙が相続。平成一八年は法定更新(三回目)。甲は、更新料の合意または慣習を根拠に五二五万円の更新料(土地時価の七%)を請求して提訴してきた。昭和六一年の合意更新時に作成した契約書には更新料の定めは一切なかったが、更新料と推定される二二〇万円の支払がEからDになされている。判決は、「次回の更新に際して更新料の支払が要件になるか否かは、貸主であるD側にとっても、借主であるE側にとっても重要な事項であり、これが当事者間で合意されたのであれば、本件賃貸借契約書にその趣旨の条項が書き込まれてしかるべきところ、本件賃貸借契約書にはそのような条項が存在しない」として更新料支払合意の存在を否定し、慣習を根拠とした甲の請求に対しては「一定の基準に従って当然に更新料を支払う旨の慣習が存在するとまで認めることはできない」として、地主の更新料支払請求を棄却した。
(寸評)
右の【事例二】は筆者が代理した組合員の事例である。地主は控訴したが、第一回以前に取り下げ、請求棄却の一審判決が確定して解決した。借地契約書に更新料を支払う旨の条項がなく更新料支払合意が認められない場合に、借地契約が期間満了時に法定更新したときには、借地人には更新料の支払義務がなく、更新料を支払う事実たる慣習の存在は認められないというのは、【事例一】の判決も引用している昭和五一年最高裁判決により確定した解釈で、現在の下級審もこれに従っている事例として紹介する。(弁護士 田見高秀)
(東京借地借家人新聞より)