http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3810/1.html
── 時間もお金も自分のためだけに使える。
そんなおひとりさまの将来に、落とし穴があることが分かってきました。
例えば、親族と疎遠のまま独身生活を送り、定年後、郊外に引っ越そうとすると、賃貸住宅の家主から「身元保証する人がいないと貸せない」と断られることも多いのです。
さらに、介護施設と契約するときも、病気で入院するときも、身元保証という壁が立ちはだかるのです。
こうした中、増えているのが、おひとりさまからお金を受け取って、身元保証を請け負う団体です。
ところが先月(4月)、大手の「日本ライフ協会」が、預かった金を職員の人件費などに流用して破産。
契約者たちが深刻な事態に直面しています。
おひとりさまピンチ! “身元保証サービス”の落とし穴
東京都内で一人暮らしをしている60代の女性。
破産した日本ライフ協会と契約を結び、身元保証などを依頼していました。
日本ライフ協会の元契約者(67)
「156万円、私は支払ったんですね。」
老後の蓄えを切り崩して納めたお金のうち、いくらが戻ってくるかは分かっていません。
日本ライフ協会の元契約者(67)
「怒りというか悲しいというか。
本当に頭の中から、それが離れないですね。」
女性が契約を結ぶことになったきっかけは、3年前、長年連れ添った夫をがんで亡くしたことでした。
日本ライフ協会の元契約者(67)
「喪失感ですね。
お互いに助け合ってきた人生でしたのでね。」
子どもはなく、頼れる親族もいない。
将来、急病で倒れたり、介護施設に入る必要が出たりした場合に、自分一人で大丈夫なのか。
膨らむ不安を解消するために頼ったのが、日本ライフ協会の「みまもり家族」というサービスでした。
病院や施設に入る際、保証人になるほか、緊急時の駆けつけや家財の処分、さらに死亡したあとの葬儀の支援などのサービスを一括で提供するというものでした。
日本ライフ協会の元契約者(67)
「急いで手続きしちゃいました。
そうしないと不安ですからね。」
ところが先月、ライフ協会が破産。
将来の設計が狂ってしまいました。
老後の保証をどうするのか。
女性は悩んだ末、別の団体に、新たに120万円を支払い、契約を結ぶことにしました。
日本ライフ協会の元契約者(67)
「保証人なしで、しばらく生きようかとも思いました。
ですけどね、やはり保証人さんがいないと困るということに堂々めぐりなわけですよね。」
さらに、契約者の中には、暮らしが立ち行かなくなる差し迫ったリスクに直面した人もいます。
日本ライフ協会の元契約者(67)
「何が何でも連帯保証人を決めないと、(家の)契約更新ができないなと。」
男性は、独身で年金生活。
都内の同じアパートに、30年ほど住み続けてきました。
2年ごとの更新のたびに保証人を求められましたが、友人たちに引き受けてもらい、なんの心配もしていませんでした。
ところが一昨年(2014年)、友人たちからは年老いてきたためか、残念な返事を受け取りました。
日本ライフ協会の元契約者(67)
「(保証人を)3人にお願いしたが、これも全部きれいさっぱりに断られてしまったと。
『いや』ってやられちゃうと、人間が変わってきているのか、社会が変わってきているのか。」
せっぱ詰まった男性は、日本ライフ協会と契約したものの、2年もたたないうちに破産。
家主との契約更新は間近に迫っており、住まいを失うかもしれないという事態に陥っています。
日本ライフ協会の元契約者(67)
「(期限は)10月ですよ、困りました。
非常に揺れているというのか、悶々(もんもん)としていますよ。」
およそ2,600人の会員から預かった金のうち、3億円近くを職員の人件費などに流用し破産した日本ライフ協会。
なぜ、不正を未然に防げなかったのか。
公益法人だったライフ協会を監督していた内閣府に尋ねました。
取材に対し「法人の自律的運営を前提としており、事後チェック型の監督の中で、適切な対応を行ってきた」と回答しています。
おひとりさまを突然襲う人生の落とし穴。
一体どうすればいいのでしょうか。
ゲスト 森公美子さん(歌手)
ゲスト 結城康博さん(淑徳大学教授)
── 頼りにしていた身元保証を突然受けられなくなってしまう事態 どう見た?
森さん:いやぁ、本当にこれね、他人事じゃないです。
私も、夫を介護していますのでね、もし私が先に逝ったとしたら、彼の身元引受人とか、何もできないんですけれども、そういうことをやってくれる人が誰かいるのかっていうことを考えると、いや、本当に不安ですね。
(身の回りのことを考えてもやっぱり不安?)
もう全然。
だから、先行きどうなっちゃうのか。
やっぱり彼より長生きしなきゃなというふうにしか思えないんですけれども、私はどうにかなっても、非常に難しい問題ですよ。
(1人残されてしまうということだが?)
こんなに求められるんですか?
連帯保証人って。
── 視聴者の方より:「入院するときに、住所の異なる2人の保証人のなつ印を求められた。(40代 女性)」
「共働きなんだけれども、どちらかが先立った場合、不安。(50代 男性)」
「退職した父が『俺は保証人になれないのか』としょげていた。(40代 男性)」
結城さん:ある程度、お金が払えなかったら、保証人というのは代わりに払いますから、やっぱり年金だと経済的にちょっと不安だという施設なり、病院なり、そういうところが、年金暮らしだと保証人じゃちょっと困りますよという施設も一部あるということですね。
(だから家族がいても頼めない場合もある?)
森さん:要するに連帯保証人の資格がないということですね。
それは知らなかったです。
結城さん:そもそも昔は、家族もたくさんいましたし、兄弟もいましたし、甥や姪も関係性が非常に強かったんですよね。
でも、この家族の希薄化、親族の希薄化によって、ある程度、身元保証人を第三者で、特にお金を媒介にして頼まなければいけないという現状が今、深刻化しているのと、今、単身高齢者が、実は600万人以上いまして、20年後には750万人以上にもなりますから、これは今後、こういうニーズがどんどん増えていきますので、この問題、どうにかしないといけないということになります。
── そこで出てきてるのが、身元保証団体というもので、緊急時の駆けつけや家財の処分、亡くなった後の葬儀や納骨などのサービスを行っている この団体自体は全国に100前後あり、公益法人だけでなく、株式会社やNPOなど、さまざまな形がある。
森さん:この団体があること自体も知らなかったです。
── ただ、どうして身元保証人というのが求められるのかという疑問が視聴者からも多く寄せられているんですが、身元保証を求める側、家主や介護施設の側を取材しました。
身元保証人なしでは 住宅も施設も入れない!?
賃貸住宅の経営者で作る協会です。
仮に、身元保証人がいない人が部屋で亡くなった場合、後の整理にかかる費用を家主が負担せざるを得ず、経営に大きな打撃になるといいます。
全国賃貸住宅経営者協会連合会 代表理事 川口雄一郎さん
「次の入居者に(死亡事実を)告知うんぬんというのが出てくる。
それと要するに遺品整理に関しては、もう最低、数十万円の費用がかかる。
1年分の家賃がすぐぶっ飛びますから。
何のために貸したのか、収支があわない。」
一方、ケアが必要な高齢者を引き受ける介護施設。
死亡後の対応だけでなく、そこに至るまでにも大きな問題にぶつかるといいます。
社会福祉法人サンシャイン会 理事長 川西基雄さん
「(高齢者の)意向、意思、特に医療同意。
簡単に言えば医者が『家族を呼びなさい、どうしますか』と。
(身元保証人が)いなくなったら、『誰に聞くの?』という話です。
間違っても施設がこうしてくださいと、(医者に)言えるわけがない。」
こうした事情から、実に9割以上の施設や病院が、保証人などを求めていることが民間の調査で明らかになっています。
身元保証人なしでは 病院も施設も入れない!?
── 受け入れる側も切実な事情があって、入所を断ってしまう実態が多数あるということだが?
結城さん:一応、介護保険施設や病院は、厚生労働省も、身元保証人がいないからといって拒んではいけませんよという指導はしているんですけれども、ただ、VTRにあったように、介護保険施設がすべてかぶってしまうと、いろいろな問題があったりしますので、やはり身元保証人を求めざるを得ないという施設側の論理も理解できなくもないということですね。
森さん:有料の介護施設というのは、契約ですもんね。
結城さん:有料老人ホームの場合は一部、市場経済でやっていますから、ある程度、拒んでも拒まなくても、そこは市場経済ですけど。
森さん:ですが普通には、本当は拒まなくてもいいっていうことなんですよね。
国が言ってるんですよね?
結城さん:介護保険施設は若干、公的な施設ですから、そういう所はなるべく拒まないでくださいという指導はしているんですけれども、公的な施設であっても、いろいろ課題があるということです。
── この矛盾している現状ですよね。
施設や病院を監督する厚生労働省に取材しました。
こんな回答がありました。
まず、入所を拒んでいる施設がある現状については、3月に改めて自治体に対し、介護保険施設等を適切に指導・監督するよう周知をしました。
じゃあ、実際に求められている身元保証サービスの団体を、どう監督するのか。
身元保証団体を網羅的に把握していない。
関係省庁とよく情報交換し、何ができるか検討を深めてまいりたい。
森さん:なんか言い訳めいたことですよね。
何ができるか検討中。
でも実態はあるわけですから、それにもうちょっと切り口を持っていただかないと困りますよね。
結城さん:今回、破産してしまって、モラルに欠ける状態で、多くの利用者が困っていますけれども、実際、いい団体もあるわけですね。
ですから、きちっと本当は指導を何らかして、実際には指導も何もないでやっていますから、もし、どうしても身元保証人がいないと施設や介護保険施設、病院に入るのが難しい場合は、ちゃんとこういう団体を監視するシステムが必要かなと思います。
(今の段階では、監視・監督する省庁もないままで、利用する側の不安だけが広がってしまっているという実態ということ?)
そういうことになりますね。
── その中で、それをなんとか解消しようという模索が始まっています。
あなたの今後は大丈夫? 身元保証人 誰に頼む?
東京・足立区では、行政が運営費を補助している社会福祉協議会が問題解決に取り組んでいます。
高齢者が病院や施設に入る際に、家族などに代わって、必要な手助けを行う支援事業です。
事業者
「ヘルニアと足のアザの手術をされましたけど。」
この日訪れた69歳の男性は、入院する場合に保証人になってくれる親族がいないことを不安に感じ、この事業を利用することにしたといいます。
区の社会福祉協議会は、男性からあらかじめ52万円を預かっています。
3か月分の入院費と、亡くなった後に最低限の葬儀などを行うための経費です。
さらに…。
事業者
「お通帳が○○の下の○○の中に(入っている)。
見せていただいてもいいですか?」
事業者
「あった。」
事業者
「お通帳。」
追加の医療費を代わりに支払う場合などに備え、預金通帳の保管場所や年金の情報を確認しています。
事業者
「スーパーがん保険。」
加入している保険の内容も把握。
事業者
「葬儀の希望はなし。
埋葬は真言宗。」
自分の墓を決めていなかった男性には、事前に選んでもらい遺言も作成してもらいました。
こうした準備を経て契約した後も、半年に1度は情報に変更がないか確認しています。
去年(2015年)、実際に男性が入院することになった際は、支援内容を病院側に説明し、納得してもらいました。
「遺言執行人さんにもお電話をさせていただいて。」
この日は、利用者の別の女性が亡くなったという連絡が、入院先の病院から入りました。
足立区社会福祉協議会 権利擁護センターあだち 課長 アルマルカウィ惠子さん
「(葬儀会社に)早くご遺体を引き取っていただいて、いつ葬儀をするのかきめていただいて。」
病院や施設側の心配を一つ一つ取り除くことで、これまで受け入れを断られたことは一度もありません。
しかし、社会福祉協議会には限界もあります。
契約までに平均4か月かかる上、限られた人員で対応しているため、利用者は45人にとどまっています。
足立区社会福祉協議会 権利擁護センターあだち 課長 アルマルカウィ惠子さん
「すべてのご相談に即対応できるだけの組織の体制かと(いうと)、実際のところ、そこまでまだ万全の態勢を組めていない。
もう少し財源があれば、そこら辺も対応できるんでしょうけども。」
さらに、こうした身元保証問題に取り組んでいる社会福祉協議会や自治体は、全国でも数えるほどしかありません。
そのため、多くの場合は、ほかの民間の団体に頼らざるを得ないのが現状です。
最近も、介護施設に急きょ入ることが必要になった1人暮らしの男性に、NPOが対応し入所にこぎ着けました。
NPO法人敬寿 支援相談員 田中雅晴さん
「今日からここが住まいになりますから。」
「はい。」
男性は去年、路上で倒れているところを発見され、救急搬送されました。
幸い、命に別状はありませんでしたが、退院後の行き先が問題となります。
頼れる身寄りのない男性を介護施設に引き受けてもらえるのか。
病院も頭を悩ませていました。
その時、病院から連絡を受け、すぐに保証人を引き受けたのが、このNPOでした。
まずは施設探しを支援。
身辺の詳しい情報はその後、確認していきました。
さいたま市民医療センター 医療ソーシャルワーカー 大滝直さん
「とにかくスピードが大事になってきますし、一緒にすぐに動いてくれたところが本当に助かりました。」
NPO法人敬寿 支援相談員 田中雅晴さん
「髪がずいぶん伸びてきた。」
「(理容室へ)行きたいんですよ。
後ろでしょ、みんな刈りたいんですよ。」
NPO法人敬寿 支援相談員 田中雅晴さん
「(施設の人に)やってもらうように言っておきますから。」
こうした高齢者120人以上を13人のスタッフで見守っている、このNPO。
万一の時も、できるかぎり24時間態勢で対応しています。
NPO法人敬寿 支援相談員 田中雅晴さん
「(男性のように)社会貢献してきた人たちを、どのように最終的な部分まで面倒を見る。
どこまで、生きてきて良かったと思われるような幸せ感ですね、そういうものを味わってもらえればなと。」
一人一人に親身に対応しようとすると、利用者を大幅に増やすことができません。
ジレンマを抱えながら活動を続けています。
あなたの今後は大丈夫? 身元保証人 誰に頼む?
── 今の取り組みをどう思う?
森さん:ちょっと救われましたね、今。
明日からでも、足立区に住みたいなって思ってるんです。
でも実のところを言うと、まだ45人しか利用者がいないということですよね。
財源の確保に困っているということですし。
NPOも、ちょっとだけ心の救いになりましたけれど。
結城さん:最後に、解決策として、今おっしゃったように、半分、公的機関のような社会福祉協議会がきちっとやって、公的資金を入れて、その保証人をちゃんと公的機関でカバーするという方法がありますが、これには、先ほどのVTRの財源やいろいろな問題があります。
2つ目としては先ほども議論になった、民間の保証団体がいいものもあるし、悪いものもありますから、じゃあしばらくの間はきちっといいものを増やしていって、監視体制をしっかりするっていう方法がありますね。
3つ目としては、今、介護保険施設や病院など、先ほど言ったように、身元保証人がいないとなかなか難しいというのであれば、介護保険施設や病院が、ある程度、受け入れやすいように公的機関がバックアップしていくということもありますので、そういうようなちょっと仕組みを変えていく。
これは、社会で解決していくということで、家族の希薄さ、親族の希薄さを社会でカバーするんですが、じゃあ個人でできるということは、やはり老後を考えて、お金だけではなかなか難しいので、日頃から人間関係を作っていくということも、お金と一緒に大事だということですね。
── 視聴者の方より:「家族とも話し合っていかなければならない、これは深刻な課題だ。」
森さん:なるほど。
これ、家族だけの問題じゃなくて、やっぱり友達であるとか、横のつながりって、とっても大切なんだなって感じましたね。
(お金を蓄えただけではどうにもならないことがある?)
お金あるからどうにかなるってことじゃない。
結城さん:今から老後まで貯金をして、お金があれば何とかなるということと同時に、遠い親戚でも、友人でも、人間関係を作って、お互い助け合って、連帯保証人にもなれるような関係も大事かなと思いますね。
質問コーナー
Q1
身元保証サービスを行う法人、どういう基準で選べばいいの?
スタジオゲストの結城康博さんに尋ねたところ、業界大手の公益法人が破産した今、法人の種類や規模は基準にはならず、「公的機関に紹介された」というのも鵜呑みにはしづらいとのこと。法人の代表や経営者に、その法人を設立した理念や、活動している背景を詳しく聞いて納得することと、あとは「勘」も大事です、とのことでした。なんとも心許ない状況で、業界全体を監督する官庁・制度の整備が求められますが、他のサービスや商品を選ぶときと同じで、担当者や経営者に出会ったときに感じる直感も馬鹿にできないとのことでした。いずれにしても法人を選ぶ際の明確な基準はないのが現状のようです。
Q2
海外の身元保証の状況はどうなっている?
たとえば、福祉が充実しているといわれる北欧のノルウェーなどでは、介護施設などで保証人を求めるのは一般的ではないそうで、費用の自己負担にも上限が定められており、入院時には、患者負担はないとのこと。日本に近い制度を持つドイツでは、介護施設等で本人が費用負担をできない場合、家族が経済的に可能な範囲で負担する義務があるものの、まずは、自治体などが介護施設に不足分を支払い、後に審査によって家族に負担義務があると確認された場合に、家族に請求がいくという順番が決められているとのこと。身寄りが見つからない場合の葬儀は多くの州で自治体の管轄と定められているそうで、家族等の身元保証人に様々な負担を求める日本とは状況が違うようです。