大阪高裁の更新料支払条項は消費者契約法10条により無効とされた判決要旨
大阪高裁 平成22年5月27日判決
原審・京都地裁 更新料支払請求事件控訴事件
●事案
京都のワンルームマンション1K(25.75㎡)
賃料月額5万3000円 共益費5000円
保証料(敷金)30万円(敷引)15万円、仲介手数料2万6500円
契約期間 平成18年4月1日~平成20年3月31日 2年間
「本件賃貸借契約が更新された場合は、法定更新、合意更新を問わず、被控訴人(賃借人)は、2年毎に、契約期間満了の2か月前までに、控訴人に対し、更新料として、賃料の2カ月分(10万600円)を支払わなければならない」と契約書に明記されている。更新手数料1万5000円(別途消費税750円)が明記。
●裁判所の判断
1、はじめに
更新料がいかなる性質のものであるかは、当該賃貸借契約成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払いの合意が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考慮した上、具体的事実関係に則して判断されるべきものである(最高裁昭和59年4月20日第2小法廷判決)
2、本件更新料条項の合理性
①更新料発生の経緯からの検討
(1)更新料は地価高騰期に始まった
借家契約の更新料は昭和30年代末ころから、都市圏を中心として始まった。長期にわたる借家契約は地価の高騰を賃料に反映させることができず、更新料という名目で金銭を受け取ることによって、脱法的に賃料の値上げを図ったことが、更新料徴収の慣行が始まった契機である。当時は住宅の絶対量が不足しており、賃貸人と賃借人との地位の不平等からくる交渉力の格差が原因。
(2)更新料が地価の高騰がおさまっても続く理由
賃貸マンションや賃貸アパートの経営が盛んになっていくと、今度は、賃貸契約期間を1、2年の短期に設定して、契約更新時に更新料をとるという利益獲得方法の旨味に見えつけた賃貸人側が、そのような新しい賃貸業者の経営形態では、従前と異なり、賃貸人と賃借人との人間関係が希薄になっていることも手伝い、一部の地域で、賃貸業者側の利益のために、引き続き、積極的に更新料徴収制度の導入を進めたという背景がある。
しかも、新しい借家契約の形態として、アパートやマンションの賃貸借契約が普及していくと、賃貸経営には素人である個人の零細賃貸人に代わって、不動産賃貸業のプロとしてのノウハウを蓄積している不動産業者が、賃貸物件の仲介人、管理人として関与するようになり、素人の賃貸人を指導して、賃貸借契約に更新料の支払条項を設けさせて、更新料の一部を不動産業者が更新手数料として徴収できる方法を取り入れ、一部の地域で、不動産業者の利益のために、従前にも増して、積極的に更新料徴収制度の導入を進めたことを指摘できる。
不動産業者にとって、賃貸借契約の更新時に取得できる更新料は、新規契約を獲得するときのコストと時間(賃貸物件の賃貸借条件の設定、広告・紹介・案内、借主募集・審査)を要せず、更新された賃貸借契約書の手間だけであるのに、ある程度の更新手数料を取得することができるために、賃貸不動産の管理業者にとっては、更新料制度は極めて旨味のある制度となっていたのである。
※地価の高騰が収まり、賃料相場の横ばいないしは下落が認められるようになった平成18年時点では、更新料を認めることは合理性はなく、賃借人(被控訴人)の利益を害し、賃貸人(控訴人)や賃貸物件管理業者(フラット)の利益確保を狙った不合理な制度といえる。
②更新料の法的性質からの検討
(1)賃料補充の性質
平成3年以降、地価高騰が収まり、逆に地価が下落して、賃料相場は横ばいないし下落、賃貸借契約の更新時に、継続賃料と新規賃料との差を更新料で補充の前提崩れている。
本件更新料につき、使用収益期間との対応が全く認められない。本件更新料は、賃料の補充としての性質を有するものとは認められない。
(2)賃貸借契約更新の異議権放棄の対価としての性質
本件ワンルームマンションの自己使用の必要性から、賃貸人(控訴人)には、本件賃貸借契約の更新拒絶について正当事由が存在し、契約更新の異議権が発生するなどということは、およそ考えられないことである。本件更新料が賃貸人の異議権放棄の対価としての性質を有するなどということは、全く合理性のない議論である。
(3)賃借権強化の対価としての性質
本件ワンルームマンションの賃貸借契約では、契約期間2年の更新毎に、賃借人(被控訴人)が賃貸人(控訴人)に本件更新料を支払うことによって、賃貸人からの正当事由に基づく賃貸借契約の更新拒絶を防ぐということは、およそ考えられない議論である。
③更新料に対する社会的承認からの検討
本件更新料が、日本全体で社会的に承認を得ているとは評価できない。月額2か月分の更新料は全国的にみても多額の更新料額である。
国土交通省の標準契約書には、貸主が更新料を取得する旨の規定は置かれていない。公営住宅や住宅都市整備公団の住宅では、更新料は徴収されていない。住宅金融支援機構は、旧住宅金融公庫が融資して建築された賃貸用建物について、賃貸人が賃借人から更新料を徴収することは、賃借人にとって不当な負担となることを賃貸の条件とする場合にあたるとの理由で禁止している。
④小括
以上の次第で、住宅の賃貸借契約において、更新料の徴収が40年以上にわたり一部の地域で行われたことは認められるが、そのことを理由に、一部の地域で根強く続いている更新料徴収の慣行が、更新料に対する社会的承認を得られた合理的な制度であるとは到底認められず、むしろ、本件更新料条項は、賃借人の利益を犠牲にし、賃貸人や賃貸住宅管理業者の利益確保を優先した不合理な制度であることが認められる。
4、消費者契約法10条前段・後段の要件充足
本件更新料条項は、消費者の利益を一方的に害する内容であることが認められ、消費者契約法の10条の前段・後段の要件を充足している。
5、結論
以上、本件更新料条項は消費者契約法10条により無効であることが認められ、控訴人は被控訴人らに対し更新料を請求することはできない。本件控訴は理由がないから棄却する。
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