◆賃貸住宅の敷金や礼金、不当な請求でも、うのみにするしかないの。
◇損傷「自然に」?「過失」? 明け渡し時に家主と確認を
賃貸住宅に入居する時にかかる敷金や礼金は高額に上ることもあり、借り主にとって大きな負担となる。「出る時に返してもらえる」と思っていた敷金がほとんど戻らず、トラブルになるケースも少なくない。しかし、必ずしも家主側の言い分をうのみにする必要はなさそうだ。
家主から女性に送られた請求書。フローリング補修など6項目が並ぶ 大阪市旭区の女性(34)は10月、7年半住んだ区内の賃貸マンションを引き払った。契約時の保証金(敷金)は70万円で「解約引(敷引き)」が45万円。敷引きは、契約時に「解約時は敷金の一定額を返還しない」という特約がつくことで、大阪や兵庫、福岡などでみられる制度だ。
女性は「それでも25万円は返ってくる」と期待し、振り込みを待っていたが、2カ月後に届いたのは、補修費25万9350円の請求書だった。明細にフローリング補修やクロス、畳表の張り替えなど6項目が並び、「差引返却金額(9350円)が不足しておりますが、当社負担といたしました」と記されていた。
長年住む間に、壁のクロスや畳表は自然に日焼けし、床には家具の跡が残る。網ガラスも室内外の温度差でひび割れることがある。こうした「自然損耗分」の補修費までは請求できないことが、最高裁の判例にあり、定着している。ただ、損傷を「自然損耗」とするか「故意や過失による」とするかは一概に言えず、明け渡す時、家主に立ち会ってもらって確認した方がいい。
もう一つの問題は敷引き。敷金の全額、あるいは9割近くが敷引きという物件さえある。最近の判例では、敷引きも「消費者の利益を一方的に害する」とされ、消費者契約法違反となる。女性の事例のように、敷引きしたうえ、自然損耗分とみられる補修費まで請求するのは問題外だ。
◇「礼金に法的根拠なし」
不動産契約にまつわる慣習や用語は地域によって異なる。関東や京都では礼金制度が一般的で、契約時に敷金とは別に家賃の1~2カ月分を要求される。貸主への謝礼の意味のようだが、解約時に戻らない点では敷引きと同じ。大阪などでも、物件の表示が「敷金40万、敷引き30万」から「敷金10万、礼金30万」などへ変わり始めているという。
礼金に関する訴訟例はまだないが、大阪の弁護士や司法書士でつくる「敷金問題研究会」の増田尚弁護士は「家主は部屋を貸し、借り主は家賃を支払う。これで契約の対価関係は成立している。(礼金に)法的根拠は何もない」と指摘する。
旭区の女性はインターネットで敷引きを違法とする判例などの情勢を知り、家主に「納得できない。補修費は敷引きの45万円から出すべきだ」と抗議した。家主側はいったん「床や壁の補修代は当社で負担します」とし、数日後に「25万円全額返します」と態度を一転させたという。
違法な請求には泣き寝入りせず、強い姿勢で交渉する必要がある。【遠藤孝康】
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■判例などで示された負担の例
◆家主側が負担すべき補修費
・壁や天井のクロスの日焼けや電気焼け
・床や畳についた家具の跡
・室内外の温度差による網ガラスのひび割れ
・通常使用での障子やふすまの汚れ
◆借り主が負担すべき補修費
・ペットの飼育による損傷
・喫煙による床やクロスの焦げや落ちないヤニ汚れ
・故意や過失で割れたガラス
・落書きされた壁のクロス
※注 状態にもより、すべてが当てはまるとは限らない
(毎日 12月19日)
◇損傷「自然に」?「過失」? 明け渡し時に家主と確認を
賃貸住宅に入居する時にかかる敷金や礼金は高額に上ることもあり、借り主にとって大きな負担となる。「出る時に返してもらえる」と思っていた敷金がほとんど戻らず、トラブルになるケースも少なくない。しかし、必ずしも家主側の言い分をうのみにする必要はなさそうだ。
家主から女性に送られた請求書。フローリング補修など6項目が並ぶ 大阪市旭区の女性(34)は10月、7年半住んだ区内の賃貸マンションを引き払った。契約時の保証金(敷金)は70万円で「解約引(敷引き)」が45万円。敷引きは、契約時に「解約時は敷金の一定額を返還しない」という特約がつくことで、大阪や兵庫、福岡などでみられる制度だ。
女性は「それでも25万円は返ってくる」と期待し、振り込みを待っていたが、2カ月後に届いたのは、補修費25万9350円の請求書だった。明細にフローリング補修やクロス、畳表の張り替えなど6項目が並び、「差引返却金額(9350円)が不足しておりますが、当社負担といたしました」と記されていた。
長年住む間に、壁のクロスや畳表は自然に日焼けし、床には家具の跡が残る。網ガラスも室内外の温度差でひび割れることがある。こうした「自然損耗分」の補修費までは請求できないことが、最高裁の判例にあり、定着している。ただ、損傷を「自然損耗」とするか「故意や過失による」とするかは一概に言えず、明け渡す時、家主に立ち会ってもらって確認した方がいい。
もう一つの問題は敷引き。敷金の全額、あるいは9割近くが敷引きという物件さえある。最近の判例では、敷引きも「消費者の利益を一方的に害する」とされ、消費者契約法違反となる。女性の事例のように、敷引きしたうえ、自然損耗分とみられる補修費まで請求するのは問題外だ。
◇「礼金に法的根拠なし」
不動産契約にまつわる慣習や用語は地域によって異なる。関東や京都では礼金制度が一般的で、契約時に敷金とは別に家賃の1~2カ月分を要求される。貸主への謝礼の意味のようだが、解約時に戻らない点では敷引きと同じ。大阪などでも、物件の表示が「敷金40万、敷引き30万」から「敷金10万、礼金30万」などへ変わり始めているという。
礼金に関する訴訟例はまだないが、大阪の弁護士や司法書士でつくる「敷金問題研究会」の増田尚弁護士は「家主は部屋を貸し、借り主は家賃を支払う。これで契約の対価関係は成立している。(礼金に)法的根拠は何もない」と指摘する。
旭区の女性はインターネットで敷引きを違法とする判例などの情勢を知り、家主に「納得できない。補修費は敷引きの45万円から出すべきだ」と抗議した。家主側はいったん「床や壁の補修代は当社で負担します」とし、数日後に「25万円全額返します」と態度を一転させたという。
違法な請求には泣き寝入りせず、強い姿勢で交渉する必要がある。【遠藤孝康】
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■判例などで示された負担の例
◆家主側が負担すべき補修費
・壁や天井のクロスの日焼けや電気焼け
・床や畳についた家具の跡
・室内外の温度差による網ガラスのひび割れ
・通常使用での障子やふすまの汚れ
◆借り主が負担すべき補修費
・ペットの飼育による損傷
・喫煙による床やクロスの焦げや落ちないヤニ汚れ
・故意や過失で割れたガラス
・落書きされた壁のクロス
※注 状態にもより、すべてが当てはまるとは限らない
(毎日 12月19日)